それなりフェスティバル ― 言葉が勝手に独り歩き
翌週の朝。
黒板の落書きは進化していた。
《ユウ=それなり教祖》
《信者募集中(平均点の奇跡)》
ユウ:「やめろおおお!!信仰にするな!!!」
ダイキ:「いや、もう流行ってるぞ。“それなりポーズ”とか生まれてる。」
カズ:「腕を“それなり”に上げて、顔を“それなり”に傾けるやつな。」
タクミ:「お前、校内ミーム製造機じゃん。」
ユウ:「俺の人生がバズって燃えてる!!」
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◆ 昼休み・購買前
女子たち:「“それなりに可愛い”って言われたら、地味に嬉しくない?」
「わかる、“それなり”って逆にリアル!」
「今どき“それなり”がちょうどいい男って流行りじゃん!」
ユウ(通りかかる):「おい、誰だ流行らせたの!!」
女子:「教祖様だ♡」
ユウ:「違うぅぅぅぅ!!」
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◆ 放課後・部室
カズ:「見ろよ、TikTok。“それなりチャレンジ”伸びてるぞ。」
ダイキ:「“それなりに告白してみた”とかいう動画まであるw」
タクミ:「“それなり”で告白ってどういう感情なんだよw」
ユウ:「俺が文化を汚染してる……!!」
安藤先生(ドア開けて):「……で、また何バズらせてんの?」
ユウ:「先生、違うんです!俺は誠実に褒めたかっただけで!」
安藤先生(昆布を噛みながら):「誠実も拡散力を持つ時代なのよ。」
ナムサン(後ろから乱入):「それなりに筋肉つけなさい♡」
ユウ:「いらねぇ加護!!!」
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◆ 翌日・屋上
三柱が昼食タイム。
下では杏仁豆腐が「それなりポーズ」で後輩に囲まれていた。
レイナ:「うわ、あのバカ、人気出てんじゃんw」
アイカ:「“事故の再現性”って案外エンタメになるのよね。」
ミナミ:「……広がるの、早いね。」
レイナ:「何が?」
ミナミ:「バカも、熱も、言葉も。」
風が吹いて、ミナミの髪が揺れた。
その視線の先で、ユウが叫んでる。
ユウ:「“それなり”に生きて何が悪いんだあああ!!!」
観客:「それなりーーー!!!」(大歓声)
ミナミ:「……もう手遅れね。」
アイカ:「神話の感染速度、ギャル神社越え。」
レイナ:「てかもう宗教じゃんw」
ミナミ:「……青春って、勝手に祀られていくのね。」
——そして、その日の放課後。
校内掲示板には新たなポスターが貼られた。
《第1回・それなりフェスティバル 開催決定》
〜“それなり”で踊れ、“それなり”で笑え、“それなり”で生きろ〜
ユウ:「もうだめだ……俺、概念になった……」
カズ:「おめでとう、伝説昇格。」
タクミ:「バンド名、杏仁豆腐 feat. それなりでいい?」
ダイキ:「それなりに売れそうだな!」
ユウ:「うるせぇ!!!」
⸻
ミナミ(ナレーション):「熱ってね、広がるときは理屈じゃ止まらないの。」
(少し笑って)「あのバカたちは、ちゃんと“それぞれ”輝いてる。」
——“それなり”でも、“それぞれ”でも。
青春は、勝手に燃える。




