それなりの悲劇 ― 語彙力って青春に必要?
放課後の旧音楽室。
ストーブの横にカップ麺、机の上に哲学とバカ。
レイナ:「男子ってさ、女子のどこに惹かれんの?」
ダイキ:「俺は二の腕。あと唐揚げ食ってるときの手。」
カズ:「声。あと笑ったときのえくぼ。」
タクミ:「髪。風に揺れたら即恋。」
アイカ:「また出た“髪フェチ協会”会長。」
ユウ:「……俺は、人の後ろ姿。腰のライン。」
全員:「出た、フェチの化身。」
ミナミ:「ふっ……バカだけど筋が通ってる。」
ユウ(内心)「うおお……認められた!恋が始まる音した!!」
⸻
レイナ:「じゃあ、あたしたち三人ってどう?」
ユウ:「え?」
アイカ:「“それぞれに”どう素敵か、語ってみ?」
ミナミ:「逃げんなよ。」
ユウ:「(よし、落ち着け。ここは誠実に……“それぞれに魅力がある”って言うんだ)」
深呼吸。
ユウ:「……みんな、それなりに魅力があって――」
空気、静止。
カズ:「……あれ、今“それなり”って言った?」
ダイキ:「おい、誰かAED持ってこい」
タクミ:「恋の現場に言葉の事故発生!」
レイナ:「それなりってwwwww」
アイカ:「つまり、平均点w」
ミナミ:「……“それなり”ね。」(氷の声)
ユウ:「違う違う違う!“それぞれ”って言いたかったの!!舌が裏切ったの!!」
カズ:「舌が青春裏切るタイプの男子w」
ダイキ:「脳内では愛、口から事故。」
ユウ:「違うってえええ!!!」
⸻
翌日。黒板に落書き。
《それなりフェチ・ユウ爆誕》
《平均値の恋愛観で人生オワタ》
ユウ:「俺の名誉が冬眠してる!!」
カズ:「お前、恋より滑舌トレしろ。」
タクミ:「語彙力の筋トレな。」
ダイキ:「“それなり”に頑張れw」
ユウ:「お前ら全員それなりの地獄に落ちろ!!!」
⸻
放課後。廊下でミナミと遭遇。
ヒールの音が近づく。
ミナミ:「……“それぞれ”って言いたかったんでしょ?」
ユウ:「っ、はい……本気で褒めたつもりで。」
ミナミ:「……ふふ。知ってた。」
ユウ:「え?」
ミナミ:「あんた、言葉は不器用だけど、熱だけは本物ね。」
ユウ:「……ありがとうございます(それぞれに)」
ミナミ:「今度こそ言えたじゃん。」
ユウ(内心):「それなりに……じゃなくて、ちゃんと響いた。」
——青春は、言葉の間違いで温度を上げる。




