case三柱 #3 「春の信仰、風の監視」
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昼下がりの屋上。
春風がスカートの裾を揺らす。
けれど、下の校庭ではもっと落ち着きのない風が吹いていた。
レイナ:「あれ見て!杏仁豆腐、またバカ集会してんじゃん!」
アイカ:「“モテ春キャンペーン”だって。毎年恒例の儀式らしいわよ。」
ミナミ:「……春はバカが開花する季節だからね。」
笑いながらも、ミナミの視線は下に釘付けだった。
杏仁豆腐の4人が真剣な顔で“モテ理論”を議論している。
まるで科学実験のように、青春をこねくり回していた。
レイナ:「……やば。あいつら全力でバカしてる。」
アイカ:「真剣に空回りしてるって、青春の正解だと思う。」
ミナミ:「あのバカ正直さ、ちょっと懐かしいね。」
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下ではユウが“後ろ姿フェチ理論”を熱弁していた。
もはや宗教。
周りの男子たちがうなずくたびに、信仰が広がっていく。
ミナミ:「……あの子、自覚ないのよね。どれだけ見られてるか。」
アイカ:「観測対象の自覚がない観測者、ってやつ?」
レイナ:「難しく言うなw」
ミナミ:「放っとくと、誰かに持ってかれるタイプ。」
アイカ:「はい出た、“縄張り管理”発言。」
ミナミ:「観察の一環。」
レイナ:「恋愛じゃなくて研究って言い張るタイプね。」
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そのとき、ユウが一年女子に話しかけた。
レイナ:「お、動いた!」
アイカ:「実験開始。」
ミナミ:「……。」
ヒールの音が軽く鳴る。
校庭を横切った瞬間、女子がサッと退散。
まるで風が通り抜けたように。
レイナ:「……はい、撃退〜!」
アイカ:「秒速で制圧。」
ミナミ:「……風が強かっただけでしょ。」
レイナ:「強風注意報(恋愛限定)ね。」
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放課後。
ギャル神社(仮)の屋上ベンチで、三人がココアを飲む。
アイカ:「結局、杏仁豆腐の春キャンペーンは不発だったね。」
レイナ:「でも楽しそうだったじゃん。あいつら負けても笑ってるし。」
ミナミ:「ああいう笑い方、いいね。……くだらなくて、まっすぐ。」
アイカ:「感情の温度だけで生きてる。羨ましいくらい。」
レイナ:「惚れた?」
ミナミ:「惚れてない。……ただ、眩しいだけ。」
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夕暮れ。
屋上の風がやんで、街のざわめきが遠くで溶ける。
下ではユウたちの笑い声が響いていた。
アイカ:「春って、恋が芽吹く季節って言うけど。」
レイナ:「この学校だけ、バカが芽吹いてる。」
ミナミ:「恋よりも、笑ってる方が長持ちするのよ。」
──風が、校舎を抜ける。
三人の髪を揺らしながら、遠くのバカたちの声を運ぶ。
アイカ:「……また観測、続ける?」
ミナミ:「もちろん。退屈しないもの。」
レイナ:「あ〜、やっぱ青春って感染るね。」
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その風の向こうで。
杏仁豆腐は、自分たちが“加護されてる”なんて気づきもしなかった。
本当はただ、観測者の視線という名の風に包まれていただけなのに。




