表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青春ギャラクティカ  作者: 灰色ぎつね
77/192

case.ミナミ 『あの子の味覚と恋の話』

 春の午後。購買前のベンチ。

 私は缶コーヒーを傾けながら、バカ男子たちの笑い声を聞いてた。

 杏仁豆腐──あの子たち、ほんとにうるさい。

 でも、嫌いじゃないんだよね。

 特にユウ。あの子は、馬鹿みたいに真っ直ぐ。

 アイラインの角度で人生語れる男、他にいないっての。



 その日、ユウが手にしてたのが“杏仁抹茶”。

 見た瞬間、私は笑った。

 だって、あれだよ? 見た目、もう“味覚の交通事故”だったもん。


 でも、ユウはうっとりした顔で言うの。

 「これ、恋の味っス」って。


 ほんと、どこからそんな言葉出てくるのよ。

 アイラインのバサバサと同じで、

 誰も理解しない熱を、平気で本気で信じてる。

 それが、あの子の一番危ないところ。



 レイナとアイカが爆笑してる横で、私は少しだけ黙った。

 あの缶の、淡い緑と白のツートンカラー。

 混ざり合うことを前提にしてるくせに、

 どっちも主張が強すぎて、調和しない。


 ──なんか、あの子みたいじゃん。


 真面目と変態、理性と情熱、

 矛盾した成分をそのまま振り切って、生きてる。

 そりゃ、誰も真似できない味になるわけだ。



 「味覚センスは壊滅的ね」って言ったとき、

 ほんとは少し照れてた。

 だって、“女のセンスは悪くない”って

 自分でフォロー入れちゃったんだもん。


 ──あの笑顔、バカ正直にドヤるんだもん。

 ちょっと、ずるいじゃん。



 夜。

 家に帰って、机の上に置かれた“杏仁抹茶”の空き缶を見つけた。

 後輩たちがふざけて置いてったんだろう。

 でも、その色が、

 なんだか春の終わりの空みたいで、

 捨てられなかった。



 恋って、案外こういうもんかもね。

 万人ウケしない。

 でも、誰かの心には、永遠に残る。


 ──あの子の言葉を借りるなら、

 “甘いのに渋い、優しいのに攻撃的”。


 ……うん。

 やっぱ、恋の味じゃん。



ナレーション:

その夜、校門前のコンビニには、

一つだけ“杏仁抹茶”が残っていたという。

誰かが買った。

きっと、彼女だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ