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青春ギャラクティカ  作者: 灰色ぎつね
73/192

case.アイカ 「観測限界」



春。

体育館裏の空気は、熱を孕んでいた。

数値で表せるなら、摂氏38度。

でも、これは気温じゃない。青春の温度。


私は観測者。

“熱”を可視化する係。

けど、今日のこれは――

公式が通じない。



ステージの袖から、光が漏れてくる。

マンバ三人のラメが反射して、まるで黒曜石みたい。

“ギャルの進化形”って自称してたけど、

進化っていうより、暴走だと思った。


レイナ「やば、あの光量。ほぼ攻撃魔法じゃん。」

ミナミ「光り方に理性がないのよ。」

私「……観測不能レベル。」


三人で並んで、出番を待ってた。

外はざわめきと香水の熱。

中は、静かな緊張。


ミナミの手が、軽く動いた。

スカートの裾を整える、その仕草だけで

照明がこっちに吸い寄せられる気がした。


観測記録#043:対象Aミナミ、光源化。

外部刺激:ステージ熱。

結果:観客の脈拍上昇予測+20%。



幕が開く。

マンバたちの爆音。

観客の声が、振動みたいに空気を揺らす。


私は深呼吸して、立つ。

レイナがウィンクを残して歩き出す。

ヒールがリズムを刻む。

それが“宣戦布告”の音。


ミナミの後ろ姿がゆっくりとステージへ向かう。

白いシャツの背中。

光を受けて、輪郭が淡く滲む。

その瞬間、私は思った。


——“あぁ、やっぱりこの人、照らす側だ。”


観測記録#045:照度上昇、心拍増。

原因:嫉妬……か、共鳴。区別つかず。



観客が静まる。

マンバたちの熱が“燃焼”なら、

三柱のそれは“発光”。


レイナの笑顔。

ミナミの沈黙。

私の視線。

全部で一つの波になる。


その真ん中に、ユウの姿が見えた。

袖の影で、彼が息を飲む。

あの目。

理屈じゃない反応。

純粋に“観測されてる”と感じた瞬間、

胸の奥が痛くなった。


観測記録#046:対象Bユウ、視線交差。

異常値検出。測定不能。



ショーの終盤。

ミナミの声が、スピーカーを通して響く。

「光を受ける側じゃなく、照らす側だってこと──忘れんな。」


その言葉が落ちた瞬間、

観客の歓声が一斉に上がった。

私はスマホのメモに指を滑らせる。


《観測記録#047:熱、臨界突破。青春、実験終了不能。》



ステージの裏。

レイナはハイテンションで笑ってる。

「勝った!てか、神話更新したでしょ、うちら!」

ミナミは髪を整えながら、

「……バカ。でも、嫌いじゃない。」と呟いた。


私は記録を閉じた。

でも、指が止まらない。


だって――

この熱、まだ観測しきれてない。



【end:case.アイカ「観測限界」】


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