case.ミナミ 「照らす側の美学」
ステージの光は、春の陽より強い。
でも私は、眩しさに目を細めるより、
その光がどこに向かうのか――そっちを見ていた。
購買前の騒動からまだ数日。
“カーストバトル”が、
安藤先生の口から「祭り」として提案されたとき、
私は思った。
――悪くない。
戦いより、祭りのほうが、青春らしい。
⸻
体育館の裏。
マンバたちの香水の匂いが風に混じっている。
黒光りする肌。
白のアイラインが、まるで刃。
“若さ”を見せるための光。
眩しくて、少し痛い。
レイナがタピオカ片手に笑う。
「ステージ出る前に糖分チャージ完了!」
アイカはスマホで照明パターンを確認していた。
「光、強すぎない? 照らされすぎると台無しよ。」
私は、ネクタイを軽く直して答えた。
「……光は、当てられるもんじゃない。使うものよ。」
二人が顔を見合わせ、
「出た、“ミナミ節”」と笑った。
⸻
幕が上がる。
マンバの三人が飛び出した瞬間、
空気が一変した。
まるで黒曜石が砕けるような、光と音。
彼女たちは、確かに強かった。
あの勢い、あの熱。
“若さ”という名の暴力。
でも――持続しない熱は、ただの燃焼。
「夜を照らすのは太陽じゃない。あたしらだ!」
彼女たちの叫びに、観客が沸く。
その歓声の熱を浴びながら、
私は、少しだけ笑った。
……じゃあ、こっちは“太陽”そのものを見せる。
⸻
私たちの番。
白いシャツ。
ピンクゴールドのスカート。
シンプルで、計算されてて、
何より“呼吸できる服”。
レイナが先に歩く。
その背中に、風が巻いた。
アイカが続く。
照明が一瞬で柔らかく変わる。
そして、私。
歩くだけで音が変わる。
観客が息を止める。
静寂が、最も強い音になる瞬間。
「“魅せる”ってのは、惹かせることじゃん。」
自分の声が、空気を震わせた。
誰かの歓声でも、拍手でもない。
あの瞬間だけは、
“視線の向こう”と確かに繋がっていた。
視線の先――ユウ。
ステージ袖で、まっすぐこちらを見ていた。
あのバカな熱を、そのまま光にして。
⸻
ショーの終盤。
ステージ中央に並んだとき、
マンバのマユが笑って言った。
「認めるよ。三柱、さすがだわ。」
レイナ「ふふ、やっと分かった?」
アイカ「でも走り続けるのがギャル、でしょ。」
私「そうじゃん。ギャルってのは――
光を受ける側じゃなく、照らす側だってこと。忘れんな。」
その瞬間、歓声が弾けた。
まるで春そのものが爆ぜるように。
⸻
ステージ裏。
熱気がまだ残っていた。
遠くで杏仁豆腐の笑い声が聞こえる。
ユウの声も、混じってた。
「俺、色白のビーナスのエクボが至高なんで。」
吹き出しそうになって、やめた。
笑ったら、多分、負けになるから。
でも口元が勝手に緩んだ。
“ほんと、バカ。”
けど――そのバカに照らされるのも、悪くない。
⸻
春の光が、まだ残るステージ。
照明が消えても、足元には薄いピンクの反射。
花びらみたいなライトの残光。
私は小さく息を吐いた。
「……熱、か。」
観測完了。
でも、まだ少しだけ、続けてみたくなった。
⸻
【end:case.ミナミ「照らす側の美学」】




