case.レイナ 『バサバサ・スピリチュアル』
Ⅰ:購買前、春の空気
春。
桜が舞って、空気が甘い。
購買前の通路、チュロスとファンデの匂いが混ざってた。
レイナ「なにあれ、ギラギラしすぎて信号機やん」
アイカ「発光体だね。自己発電型の」
ミナミ「……新種のギャル、ね」
黒光りする肌、白いアイライン、香水で空気が跳ねる。
――マンバ族、降臨。
その中心で笑ってたのが、リーダー格のマユ。
挑発的な視線が、まっすぐ三柱を射抜いた。
マユ「三柱って、もう古くない?」
その瞬間、ミナミが軽く息を吸った。
風が一瞬止まる。
光が、ピンクゴールドに傾いた。
ミナミ「春ね。芽吹くのはいいけど、根が浅いと倒れるよ」
音じゃなく、“空気”が刺さった。
購買の前が、神殿になったみたいだった。
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Ⅱ:バサバサ事件、再燃
ユウ「ちょ、違うんすよ!“バサバサ”って褒め言葉で!」
ダイキ「出た! 物理的フェチ発言!!」
カズ「風圧で恋する男。」
タクミ「それもはや宗教だな。」
購買前に笑いが弾ける。
でも、ミナミは笑わない。
ただ、静かにユウを見ていた。
ミナミ「……で、誰のアイラインのこと?」
一拍の沈黙。
ユウの顔が真っ赤になる。
マユたちがざわめき、購買の空気が一瞬、焦げる。
レイナ「うわ、ミナミ先輩ちょっとトゲある〜!」
アイカ「わっかる〜。あれ、軽くジェラっ──」
ミナミ「うるさい。」
その“うるさい”のトーン。
他人には冷たく聞こえる。
でも、私とアイカは知ってる。
あれ、ちょっと動揺してるときの声だ。
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Ⅲ:ギャル神社(仮)/タピオカ会議
放課後。
ギャル神社(仮)=購買裏のベンチ。
タピオカ3つ、恋バナ3割、残りはバカ話。
レイナ「てか、ミナミさ、怒ってたよね?」
アイカ「怒ってた。けど半分は動揺。」
ミナミ「……動揺なんてしてない。」
レイナ「いや〜、あれ恋の揺れでしょ!」
ミナミ「違う。」
アイカ「“違う”って言葉が揺れてる。」
ミナミ「アイカ、うるさい。」
(うるさい、の裏で笑ってた。ほんの一瞬。)
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Ⅳ:購買裏、春の風
夕方。
購買裏のベンチで、タピオカのカップが転がる。
桜の花びらが、ストローの上に落ちた。
自販機の明かりが、ミナミの頬を照らしてる。
横顔が、少し赤い。
春風が吹いて、髪が揺れた。
私はスマホを傾けて、撮る。
フィルターなしで十分、映画になる光。
レイナ「……あんた、やっぱ神やわ。」
ミナミ「やめて。そういうの。」
レイナ「いいじゃん。崇拝って、友情の最上位形態だよ。」
ミナミ「……ほんと、バカ。」
でもその“バカ”が、ほんの少し笑ってた。
その笑いは、春の夜よりもあったかかった。
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【end:case.レイナ 『バサバサ・スピリチュアル』】




