春の陣 第一幕「マンバ、降臨。」
春。桜の花びらが舞う始業式の朝。
グラウンドに響く吹奏楽の音を聞きながら、ユウはポケットに手を突っ込み、眠たげに登校していた。
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ダイキ(口いっぱいにパン)「ユウ、やばい、見ろよ! なんか新種おる!!」
ユウ「……え、鳥?」
カズ「いや、人。けっこう光ってるけど。」
タクミ「ラメ……いや、あれはもう反射素材レベルだな。」
昇降口の前。
黒光りする肌、白いアイライン、ギャル雑誌から飛び出したような存在感。
新勢力、――マンバ族。
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マユ(リーダー格・余裕の笑み)「おっはー☆ あんたらが、杏仁豆腐のユウくんら?」
ユウ「……う、うん。って、なんで俺の名前……」
リカ(ノリ全開)「冬フェスの時、言ってたっしょ?」
エミ(クールに)「“ギャルのアイラインって、バサバサしてるの神じゃね?”って。」
ユウ「…………。」
ダイキ「出た! バサバサ事件!!」
ユウ「やめろ! あれは勢いだ! 例えの話だろ!」
タクミ「いや、お前、“目ぇパチパチした時の風圧がいい”って具体的に語ってたぞ。」
ユウ「物理的に好きだったわ。」
教室、爆笑。
ユウ、崩壊。
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マユ「ってことでさ〜、うちら、ギャルの進化形“マンバ”やからぁ〜」
リカ「つまり今後のカーストは三柱からマンバ族に世代交代!」
エミ「ギャル神社とか、もう古ぅ〜い☆」
その瞬間――
廊下の奥から響くヒールの音。
風が香水の匂いを運び、空気がピンクゴールドに染まる。
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アイカ先輩「……聞こえたわよ。“古い”って単語。」
レイナ先輩「ちょ、マジでバイブス乱す発言しないでもらえる〜?」
ミナミ先輩「春ね。芽吹くのはいいけど、花の格は間違えないように。」
三柱、降臨。
教室が一瞬で聖域と化した。
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マユ(やや怯みつつ)「あ、ミナミ先輩っすか……いや、その……時代って進むもんなんで。」
ミナミ先輩(微笑)「進むのはいいけど、方向音痴だと崖下よ?」
レイナ先輩「てかハイライト盛りすぎじゃね? ミラー代わりに使えるレベル!」
アイカ先輩「そのファンデ、もはや防御力上がってるでしょ。」
マユ「誰がドラクエ装備やねん!!!」
教室が一気に戦場へ。
机ガタガタ、窓バサバサ。
ユウの中で何かが蘇る。
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ユウ「……やっぱ、三柱のアイラインの角度って違うんすよ。」
ダイキ「お前またフェチ分析してんのか!」
ユウ「いや違う、角度。神が描いたようなライン。バサバサの黄金比ってやつ。」
カズ「お前、語彙がフェチ論文。」
タクミ「先生、出てきてくれ! 理性が沈没してる!」
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マユ「じゃ、勝負っしょ?」
ミナミ先輩「勝負?」
マユ「ギャルの頂点を決めよ。春の“カースト・バトル”。」
レイナ先輩「やっば、聞いた? 春からバカ祭り開幕☆」
アイカ先輩「負けたら、ギャル語録一生封印な。」
ミナミ先輩(笑っていない笑顔で)「いいじゃない。久々に遊びましょ。――青春の“熱”でね。」
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ユウ「え、俺ら関係なくね!?」
ダイキ「いや、発端お前の“バサバサ発言”だし!」
タクミ「被害者であり加害者。」
カズ「青春の裁きは理不尽だな。」
ユウ「やめろ、ポエムに逃げるな!」
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こうして――
春風の中、
ギャル三柱 vs マンバ三姉妹の頂上決戦、
その火種はユウの“物理的バサバサ愛”から放たれた。
――そして、バカの季節が始まった。




