case.アイカ #4『沈黙の共鳴』
——誤解の熱は、測れない。
でも、確かに“ある”。
冬の放課後。
スマホ画面の「#ネクタイのミナミ」を、私は無言でスクロールしていた。
廊下のざわめき。笑い声。
ミナミの名前が、トレンドの真ん中にあった。
(まったく……また騒ぎの中心)
そう思いながら、写真の中の彼女を見た。
柔らかく笑っていた。
あのミナミが。
表情筋の動き、0.8秒。
……でも、いつもの“作り笑い”じゃない。
《観測記録 #027:ミナミ、誤解由来の笑顔。成分不明。》
⸻
ギャル神社。
レイナがタピオカ片手に、爆笑していた。
「ユウくんのテンパり顔、切り抜き素材にしたいわ〜!」
私はココアを一口飲んで、視線を横にやった。
ミナミは静かに笑っていた。
「……ほんと、バカね。でも……可愛かった。」
その一言に、心臓が一瞬だけ跳ねた。
笑いながら、どこか優しい声。
あの人にそんな“温度”があるなんて。
レイナ「なに? ミナミ、まさか恋?」
ミナミ「違う。誤解に笑っただけ。」
(誤解に……笑った?)
理屈としては理解できる。
でも、心が追いつかない。
⸻
夜。
ノートを開いて、今日の記録を書き残す。
いつもなら淡々とデータ化して終わる。
でも、ペンが止まった。
“誤解って、案外、心地いいのかもしれない。”
そう書いて、少しだけ恥ずかしくなった。
私はデリートキーに指を伸ばす。
けど、押せなかった。
⸻
ミナミの笑顔。
ユウの混乱。
レイナの爆笑。
全部、熱だった。
バカで、青くて、止まらない熱。
——観測するだけのはずが、
気づけば、私もその熱の中にいた。
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《観測記録 #028:理性、わずかに融解。》
《補足:誤解=伝染の始まり。》
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窓の外、雪が降っていた。
息が白く曇る。
それを見ながら、私はひとり呟いた。
「……バカばっかり。でも、悪くない。」
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【end:case.アイカ #4『沈黙の共鳴』】




