楽器屋パニック!
土曜日の昼下がり。
俺たち四人は、街の中心にあるでっかい楽器屋に集結していた。
「おおお……!」
入口に入った瞬間、思わず声が漏れる。
壁一面にギター、ショーケースに並ぶキラキラしたエフェクター、奥にはドラムセットやキーボードまで。
音楽経験ゼロの俺らには、完全に異世界だった。
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◆ドラム、地獄の試奏
ユウ「とりあえず俺、ドラムだろ?」
勢いでスティックを握り、セットに座る。
「ドン!バン!カラン!ガシャーン!」
──結果、ただの交通事故。
ダイキ「ちょっ!お前、トラックに轢かれた音みたいになってんぞ!」
カズ「いや、むしろ廃品回収車のテーマ曲」
タクミ「……ユウ、リズム感は?」
ユウ「壊滅的」
全員「おい!!!」
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◆ダイキ、ベースと出会う
次にダイキがベースを持ってみる。
ドゥン…ドゥン…と鳴らす低音。
ダイキ「おおっ!なんか腹に響く!俺の存在感に似てる!」
ユウ「音も体型もデブいな」
ダイキ「殺すぞ!」
カズ「でも案外似合ってるな。縁の下の力持ちって感じ」
ダイキはまんざらでもなさそうにニヤニヤしていた。
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◆タクミ、当然の王道
タクミはボーカル希望で、マイクを握る。
ちょっと歌ってみただけで、女子高生の店員が振り返る。
ユウ「おい、やっぱ顔面補正強すぎだろ!」
ダイキ「声までイケメンかよ、チクショウ!」
カズ「漫画かよ……」
この時点で、全会一致でタクミ=ボーカルが確定した。
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◆カズ、衝撃の才能
「じゃあ俺、ギターでいいや」
と、カズがさくっとエレキを手に取る。
店員さんがアンプを繋いでくれたので、コードをジャラーンと鳴らす。
そのあと、試しに歌ってみた。
……空気が変わった。
軽やかで伸びやかな声。
冗談抜きで鳥肌が立つレベル。
ユウ「は?」
ダイキ「え?お前、今の何!?」
タクミ「……俺、いらなくない?」
カズ「いやいやいや!俺は表に出るタイプじゃないから!タクミが前に立つ方が映えるし!」
ニコニコ笑いながら、さらっと引いてしまう。
ユウ「……こいつ、マジでバンドに必要不可欠じゃん」
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◆そして、伝説の始まり
結局その日は、初心者用の安い楽器をいくつか予約しただけ。
でも俺たちは、確かに一歩を踏み出した気がした。
帰り道。
駐輪場で自転車にまたがりながら、ダイキが言った。
ダイキ「なぁ……俺ら、マジでやれるのかな」
ユウ「さぁな。でも絶対面白くなる」
タクミ「……まぁ、退屈はしなさそうだな」
カズ「うん。俺たちなら、なんとかなるよ」
夕暮れの光の中でペダルを踏み出す。
こうして、バンド「杏仁豆腐」は正式に始動した。