ネクタイ交換戦線(バカと恋の境界線)
◆ 放課後、昇降口
ユウ、鏡を睨みながらネクタイを締め直していた。
ユウ「よし……今日の俺、ちょっと恋してそう」
ダイキ「どこがだよ。汗で結び目テカってんぞ」
タクミ「それ、恋じゃなくて皮脂」
カズ「てか、何でそんなに張り切ってんの?」
ユウ「知らねぇのか!?
他校のカップル、ネクタイ交換してるらしいぞ!」
タクミ「今令和だよ?」
ダイキ「昭和か!!」
ユウ「うるせぇ!浪漫があるだろ浪漫が!」
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◆ その頃、噂の発信源──ギャル神社
レイナ「見た? 他校のカップル、ネクタイおそろで歩いてんのヤバくない?」
アイカ「まだそんな文化残ってたんだ……田舎、好き」
ミナミ「ふふ。ネクタイって“結ぶ”でしょ?
結ぶって“縛る”で、“つながる”の裏返しなのよね」
レイナ「ミナミ先輩、いちいち色っぽいこと言う〜」
アイカ「でも確かに、あれって首輪みたいなもんか」
ミナミ「恋はだいたい、どっちがどっちを結んでるかのバトルだから」
──そしてその会話が、何故か翌日には校内に広まっていた。
「ギャル神社で“ネクタイは恋の鎖”発言!」
「ミナミ様、恋の哲学炸裂!」
「ネクタイ持ってる男子=リア充」
杏仁豆腐、当然ざわつく。
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◆ 教室──ネクタイ戦争勃発
ユウ「こうなったら俺も交換する!」
ダイキ「誰と!? 校内にお前のこと好きな女子いんの!?」
ユウ「……いない」
タクミ「開き直るな」
カズ「俺はもう交換済みだけどね」
全員「はあああああ!?」
カズ「この前、バイト先で知り合った子。
“似合う”って言われて……気づいたら交換してた」
ユウ「……やだ、青春っぽ……」
ダイキ「くっそおおおお! 俺もネクタイ結ばれてぇぇぇ!」
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◆ 昼休み──ユウの“ネクタイ交換チャレンジ”
ユウ(よし、いける……自然に話しかければ……)
女子A「え、なに? ネクタイ貸せって?」
女子B「汚そう」
女子C「何の罰ゲーム?」
ユウ「ち、違うの!純愛なの!」
──校内中に笑いが響く。
ユウ、床に崩れ落ちる。
タクミ「どこが純愛だよ、ただの脅迫」
ダイキ「青春が死んだ音した」
カズ「でも頑張ったな、ユウ」
ユウ「……やめろよ優しくすんな……泣くだろ」
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◆ 廊下の片隅で、運命を拾う
放課後の廊下。
ユウは掃除をサボってガムを噛んでいた。
そのとき、床に落ちていた一本のネクタイが、蛍光灯の光をキラリと跳ね返した。
黒地に赤いストライプ。
端に小さく、金色の文字でこう刺繍されていた。
「ミナミ♡」
ユウ「……え、えぇぇぇえっ!?!?!?!?」
脳がバグる。
彼の中の理性が、火花を散らして燃え尽きた。
──いや、これはあれだ。運命だ。神がくれたチャンスだ。
ユウ「(落とし物届けるだけなのに……なんか……恋の予感してない?俺)」
頭の中で校内BGMが流れた。B’zの「今夜月の見える丘に」。
甘酸っぱくてアホくさい、年末の午後3時半。
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◆ 誤解ランウェイ、参上
翌朝。昇降口。
ミナミ先輩が髪を耳にかけながら登校してきた。
相変わらずのオーラ。
まるで現代に舞い降りた女神。
知性と色気が共存する、青春の終着点。
ユウは心臓の音を無視して声を出した。
ユウ「み、ミナミ先輩ッ!これ、落としましたッ!!」
ミナミ「……あら?ありがと。でもこれ、私のじゃないけど?」
ユウ「えっ!?」
ミナミ「でも……丁寧に拾ってくれたの、嬉しい♡」
その瞬間──
後ろから見てたレイナ&アイカが爆発した。
レイナ「きゃーー!ネクタイ交換ッ!?!?」
アイカ「青春、はじまっちゃったねぇ〜」
たちまち、廊下はざわつきの渦。
杏仁豆腐メンバー(ユウ・タクミ・カズ・ダイキ)は、あっという間に巻き込まれた。
ダイキ「おいユウ!お前まさかミナミ先輩とネクタイ交換したんか!?」
ユウ「違う違う違う違う!!拾っただけ!!!」
カズ「拾っただけでこの騒ぎって、もはや運命だな」
タクミ「お前、令和の“落とし文”かよ」
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◆ 誤解、拡散、そして燃焼
その日の放課後。
SNSには「#ネクタイのミナミ」トレンド入り。
ユウは死にそうな顔で机に突っ伏していた。
ダイキ「お前、文化祭のときの告白ハプニング超えたぞ」
ユウ「……俺、存在してるだけで炎上するタイプかも」
そこへ現れる、三柱。
レイナはタピオカ片手にニヤニヤ。
アイカは冷静な観察者モード。
そして──ミナミ先輩。
ミナミ「……ごめんね。あのネクタイ、私のじゃなかったの」
ユウ「そ、そうですよね!あはは!そうだと思ってました!」
ミナミ「でも、あんたの顔見てたら、ちょっと楽しくなっちゃって」
──その微笑み。
まるで甘酒よりも酔う、冬の魔法。
ユウ「(俺、正月早々、悟り開きそう)」
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◆ 真相の乱入者、ナムサン降臨!
その瞬間だった。
校門の向こうから、あの声が轟く。
ナムサン「ストーーーップ青春!!!」
ド派手なサングラスに毛皮のコート。
風を切って現れる恋と美の導師。
後ろでは安藤先生が昆布をかじりながら追いかけている。
ナムサン「そのネクタイぇぇぇ、あたしのよぉぉぉぉ!!!!!」
全員「は?????」
ナムサン、肩で息をしながら続ける。
「“ミナミ♡”ってのは、“南山”の“南”よ!!
衣装ラベルよ!衣装ぉぉ!!!」
ユウ「南……山……!?!?!?」
ダイキ「地名じゃねぇか!!!」
レイナ「サイコすぎて最高〜!!」
ミナミ先輩、苦笑しながらネクタイをナムサンに返す。
ナムサンはそれを抱きしめ、キメ顔で呟く。
「誤解って、人生の調味料よォ……」
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◆ 哲学的エピローグ
夕暮れ。
ユウたちは校庭で寝転びながら、空を見上げて笑っていた。
タクミ「結果、ナムサンのネクタイだったってオチな」
カズ「でも、あれだけの誤解で世界がちょっと楽しくなったろ?」
ダイキ「青春って、バカでできてるなぁ……」
ユウ「……でも、それでいいんだよな」
ミナミ先輩が遠くから振り返り、静かに言う。
「勘違いって、恋の入り口かもね」
そして、安藤先生が空を見ながら締める。
「誤解とは、熱の別名よ。真実だけじゃ、人は恋をしない。」
レイナ「いや〜、今年も青春サイコ〜!!」
アイカ「……サイコすぎて最高、ね」
冬の空気が少しだけ熱を帯びていた。




