case.レイナ #3『参道エンジェルと冬の奇跡』
『参道エンジェルと冬の奇跡』
初詣の参道って、さ、
なんかステージっぽくない?
鳥居の赤、雪の白、
陽に反射して髪が光る。
歩くだけで視線が集まるんだよね。
……まぁ、三柱だから当然だけど!
「レイナ、もう少し落ち着いて歩きなよ」
「だって映えるじゃん! 神様も推し活してるって!」
「お供えの意味、違うと思う」
ミナミが呆れて笑う。
アイカはスマホで“映え指数”を記録中。
今年のうちらの願いは——
恋でも金でもなく、“熱を保つ”こと。
青春が冷めないように。
そう言ったミナミの声が、やけに綺麗だった。
その時、参道の向こうで——
「ユウ!? ちょっと今ズボッって音しなかった!?」
「……したね」
「え、なに、消えた!?」
⸻
甘酒スタンド前の人だかり。
地面の隙間から聞こえてきたのは——
「ミラクルエンジェルフィットしてるぅぅぅぅ!!!」
「出たー!!!」
私は吹き出した。
正月の静けさ、秒で破壊。
もう笑いが止まらない。
「なにその語彙力!? てか生きてんの!?」
「寒い!でも包まれてるぅぅぅ!!」
「エンジェルって誰だよ!」
⸻
ミナミが前に出る。
「……あーもう、バカすぎて好き。」
その声、やけに優しかった。
私は思わず横顔を見た。
笑ってる。
あの“無表情の女神”が。
その瞬間、
笑いよりも胸の奥が温かくなった。
あ、これ——たぶん“青春”の温度。
⸻
みんなでユウを引き上げる。
ズルッ、ベチャッ、泥まみれ。
なのに、顔だけは清々しい。
「……俺、神とフィットした気がする」
「意味わかんねぇ!!」
「最高だよバカ!!」
ユウの笑顔が太陽みたいで、
雪が眩しいんじゃなくて、
たぶん世界が眩しかった。
⸻
その日の帰り、
ミナミがふとつぶやいた。
「……青春って、バカと奇跡の紙一重だね。」
私は笑いながら、心の中で返した。
——紙なんていらない。ぐしゃぐしゃに混ざってこそ青春。
参道を抜ける風が、少しだけ甘かった。
甘酒でも、神様でもなく。
きっと、あのバカどものせい。
⸻
【end:case.レイナ #3『参道エンジェルと冬の奇跡』】




