case.アイカ #2『沈黙の共鳴』
──白の残響がまだ消えない。
雪のフェスから数日、教室の空気には、まだ“音”の名残が漂っていた。
ミナミは窓際でスマホをいじっていた。
指先が止まる瞬間、画面には杏仁豆腐のライブ動画。
無表情のまま、ほんの少しだけ呼吸が浅くなる。
私は、それを見逃さない。
《観測記録:ミナミ、視線の滞在時間+1.8秒》
レイナ「ねぇアイカ。観測って、恋の別名じゃね?」
アイカ「違う。ただの“温度測定”。」
レイナ「いや、熱っぽいぞ。顔が。」
冗談半分のレイナの言葉に、ミナミは笑いもしない。
ただストローをくるくる回しながら、
「……そう見えるなら、まぁそれでいい。」
とだけ言った。
(……そう見える、ね。)
私は胸の奥に引っかかりを覚える。
あの人、ほんとに“観測される側”になってる。
⸻
放課後のギャル神社。
雪解け水の音が、まだどこかで響いている。
ミナミは珍しく、静かに空を見ていた。
雲の切れ間から光が落ちる。
その横顔が、冬に似合っていた。
レイナ「なぁ、あんた、ユウのこと……」
ミナミ「言わなくていい。」
レイナ「言わせてくれよ!」
アイカ「観測者の立場、放棄中。」
ミナミがこちらを見た。
まっすぐ。
でも、どこか柔らかい。
「……青春の修羅場ね。肝に銘じな。」
その言葉の奥に、
誰よりも冷静な人の、ほんの少しだけ熱い部分を感じた。
⸻
夜。
帰り道。
レイナと二人で並んで歩く。
レイナ「結局さ、恋とか熱とか、全部まとめて“感染”だよな。」
アイカ「うん。たぶん、私たちも少し、当てられてる。」
レイナ「観測のつもりで、体温測ってるのに?」
アイカ「測ってるうちに、自分の方が上がってる。」
レイナが笑う。
雪が頬に触れる。
私はポケットの中で手を握った。
——たぶん、恋ってそういうもんだ。
観測できないのに、確かにある。
理屈じゃなく、温度で伝わる。
《観測記録:恋よりも、熱。》
⸻
雪の道に、足跡が三つ並ぶ。
その真ん中のひとつが、少しだけ深かった。
ミナミが歩いたあとみたいに。




