case.レイナ #1 「バカと雪と熱の方程式」
ハロウィンの飾りがまだ残る頃。
オレンジの紙コウモリが、風でカサカサ揺れてた。
季節は冬に向かってるのに、校舎の空気はまだ祭りの後みたいにざわついてる。
「やば、バサバサ率、過去最高じゃね?」
昼休み、鏡前のギャル渋滞。
アイラインは戦、ビューラーは槍。
でも私は、なんとなく今日の風向きが違う気がしてた。
校庭の向こうで、杏仁豆腐のバカどもが雪でなんかやってる。
「てか、あいつら雪でドラゴン作るとか言ってんだけど」
「男子の発想、まじで化石」
アイカがスマホ構えながら笑ってる。
私はミナミを見る。
……あ、笑ってる。珍しい。
「なに? 気になるの?」
「バカなのに全力って、ちょっとずるいでしょ。」
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夕方。
校庭の真ん中に——アレが立ってた。
「ちょ、何あれ!?!?」
私とアイカ、息止まった。
全長180センチ。白き曲線。芸術の暴走。
「……ち○こじゃん」
「いや、ドラゴンらしいよ」
「無理あるっしょ」
「ある意味、生命の象徴ではあるけどね」
「やかまし!」
風の向こうで、安藤先生のヒールが鳴った。
スローモーションで後ろ回し蹴り。
雪像、爆散。粉雪シャワー。
男子、全員股間ガード。
「うわ、今の……美しい……」
ミナミがぼそっと呟いた。
あの人が“美しい”とか言うの、そうそうない。
なにこの現象。
雪より寒いのに、空気、あっつ。
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放課後。
ギャル神社(仮)でココア飲みながら回想タイム。
アイカ「つまりあれが、杏仁豆腐の“熱”」
ミナミ「……うん。バカで、青くて、でも確かだった。」
私「やばくね? あれ、才能ってより体温で作ってんじゃん!」
アイカ「レイナ、アンタ顔真っ赤」
「違う!寒いだけっしょ!!」
でも、本当はちょっと悔しかった。
私たちは頭でわかってる“青春”を、
あいつらは無意識でやってんだもん。
その時、ふと見たミナミの横顔が揺れてた。
いつも余裕で達観してるのに、
あの雪像見たあとだけは、少しだけ熱を持ってた。
……あれ見て、私の中でも何かが動いた。
完璧な人が揺れると、世界が動く。
その余熱、もらった。
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数日後。冬フェス当日。
雪、風、爆音。
杏仁豆腐、ステージの上。
あの時のバカどもが、本気で輝いてる。
「……ねぇミナミ、惚れた?」
「惚れてない。……でも、燃えた。」
——その言葉で、私の中にも何か弾けた。
「じゃ、行こっか打ち上げ」
「は?」アイカが吹く。
「だって、あの熱見たらもう行くしかなくない?」
「……衝動で動くの、ほんとギャルの病気」
「いいじゃん、うちらそういう生き物だし!」
ミナミが微笑む。
「行こう。青春の後始末、見届けにね。」
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雪が舞う夜道、三人並んで歩く。
吐く息、笑い声、ヒールの音。
足跡が三本、並んで残る。
——たぶんこの瞬間が、
ギャル神社が“神話”になった夜。
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【end:case.レイナ「バカと雪と熱の方程式」】




