case.ミナミ#8『白と黒(ゲレンデ・温泉編)』
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【白】
雪が降っていた。
あまりに白くて、音が吸い込まれる。
ゲレンデの下で、ユウがまた転ぶ。
それでも立ち上がる。
その単純な動きに、なぜか目が離せなかった。
レイナ「……あれ、もう恋の領域だよね」
アイカ「いや、観察中毒。」
ミナミ「観測。感情は伴ってない。」
レイナ「それを“否定”って言うんだよ。」
ミナミ「……データの話。」
そう言って、再びゴーグルを上げる。
吹雪の中で、ユウの息だけが白く跳ねていた。
(寒いのに、動く。……ほんと、バカ。)
レイナがちらりと横を見る。
「今、ちょっと笑った。」
アイカ「温度上昇、確認。」
ミナミ「……雪が眩しいだけ。」
視線は、もう離せなかった。
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【黒】
夜。湯けむり。
そして、混乱。
レイナ「キャアアアアアア!!ユウ!?なにしてんの!?」
アイカ「湯気の向こうから男出た。新種の怪談?」
ミナミ「……ユウ、説明して。」
湯けむりの中、ユウはしどろもどろ。
「ち、違うんです!脱衣所に黒い……その……!」
ミナミのまつげが揺れた。
「……黒い、何?」
静かすぎる声に、レイナとアイカの背筋が凍る。
そして——
「キャッ♡ アタシのパンツここにあった〜〜♡」
湯けむりを割って現れるナムサン。
沈黙。
全員、石化。
レイナ「……青春って、地獄より熱いね」
アイカ「理性、全滅。」
ミナミ「……青春の修羅場ね。肝に銘じな。」
その声は、湯気よりも静かに刺さった。
ユウの耳まで赤くなる。
ミナミは湯の縁に寄りかかり、
「……ほんと、バカ。」とだけ呟いた。
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【白と黒】
翌朝。
白い雪の上で、黒レースが風に揺れていた。
レイナ「ねぇ、あの子、また転ぶと思う?」
アイカ「うん。でも、また立つと思う。」
ミナミ「……そうね。」
雪の向こう、
ユウが笑っていた。
その姿を見つめる自分に、
気づいてしまう。
(……ほんと、バカ。でも、目が離せない。)
ミナミはマフラーを整えて、
小さく息を吐いた。
白と黒のあいだ。
静かに、
温度だけが、確かに残っていた。




