case.ミナミ #7『白銀ロックフェス:静熱の残響』
雪の匂い。
朝の空気は、肺に刺さるほど冷たかった。
校舎の二階。
ミナミは手すりに寄りかかって、下を見ていた。
仮設ステージ。
マフラーで顔を覆う観客たち。
白い息が、風にちぎれていく。
あの中に、杏仁豆腐がいる。
ユウの姿が、見えた。
ドラムの前で、まだ笑ってる。
(……寒くないの?)
言葉に出す前に、
レイナの声が後ろから飛んでくる。
レイナ「ねぇ、あのドラム、絶対あんた見てるでしょ」
ミナミ「見てない」
アイカ「いや、見てるね」
ミナミ「観測。データ収集」
レイナ「ふふっ、あいかわらず言い訳の温度だけ高い」
ミナミは肩をすくめて、視線を戻す。
雪の向こう、音が鳴った。
⸻
ベースの低音が地面を震わせ、
ギターが風を切る。
タクミの声は冷気を割るように響いていた。
でも、目が離せなかったのはユウの手だった。
かじかんだ指が、それでも叩く。
呼吸のたび、白い息がリズムと一緒に跳ねる。
音の粒が、雪の中に溶けていった。
アイカ「凍えてるのに、止まらないんだね」
レイナ「こういうの見せられると、ちょっとズルいよな」
ミナミ「……そうね」
短く言って、
その言葉の中に、少しだけ熱を残した。
⸻
ストーブが爆発した瞬間、
周囲が悲鳴を上げる中、
三人だけが黙って見ていた。
吹雪の中、真っ白な炎の跡。
レイナ「……あれ、青春の象徴ってやつ?」
アイカ「どっちかって言うと、知能の崩壊」
ミナミ「でも、嫌いじゃない」
ふっと口角を上げる。
その笑みは、息よりも一瞬だけ暖かかった。
⸻
ライブが終わるころ。
風が弱まって、雪が静かに降りてきた。
ステージの上で、ユウが空を見上げていた。
その瞳が、たまたまこちらを向く。
ほんの一瞬、視線がぶつかる。
(気づいた?……いや、違う)
レイナ「はい、観測終了〜?」
ミナミ「……一応ね」
アイカ「結果は?」
ミナミ「誤差の範囲。……でも、少し温度が上がった」
言葉の奥で、
自分の脈が静かに跳ねた。
⸻
三人で校門を抜ける。
マフラーの端が風に揺れて、
網タイツに雪が落ちて溶ける。
レイナ「寒いけど、悪くない日だったね」
ミナミ「……そうだね」
背後では、まだ笑い声が響いていた。
杏仁豆腐の笑い。
バカみたいで、
どうしようもなく、
——青春の音がした。
ミナミ「……ほんと、バカ」
でもその声は、
風に紛れて、
誰にも届かなかった。




