case.ミナミ #6「雪とバカと午後の光」
昼下がり、渡り廊下に積もる粉雪。
冷たい空気の向こう、校庭がざわついていた。
レイナ「なにあれ、杏仁豆腐じゃん!」
アイカ「また変なことしてるわね」
ミナミ「……ほんと、元気だね。」
グラウンドの真ん中で、ユウたちが雪を転がしていた。
笑って、叫んで、全力でバカやってる。
その中心に立つユウの目は、
冬の光に負けないくらい真っ直ぐだった。
レイナ「てか、あれ何つくってんの?仏?ドラゴン?」
アイカ「……あー、あれ、やばいやつ。」
ミナミ「やばい、ってどういう意味で?」
その瞬間、三人の目が同時に止まる。
校庭中央に——
妙にリアルなフォルムの雪像。
レイナ「え、ちょ……ウソでしょ!?」
アイカ「完成度が犯罪レベル。」
ミナミ「……ふっ。青春って、時々、下品になる。」
ヒールの音が響く。
校庭に現れる、安藤先生。
アイカ「やば、先生出た」
レイナ「終わったね」
ミナミ「……いや、“始まる”んだよ、ああいう時は。」
安藤先生の声が風を裂いた。
「公然猥褻――――!!!」
次の瞬間、雪像は粉砕。
白い欠片が空に舞う。
レイナ「……すご、あれ爆散ってレベルじゃない」
アイカ「青春、終焉の音した」
ミナミ「終わるっていうより、燃え尽きたって感じ。」
雪の粒が、頬に落ちる。
それを払わずに、ミナミはぼんやり見上げた。
ミナミ「……バカだね、ほんと。」
レイナ「ん?笑ってんじゃん」
ミナミ「笑うでしょ。あんな全力でバカやってたら。」
静かな風。
笑い声はまだ遠くで続いていた。
アイカ「……でも、いいな。ああいうの」
レイナ「わかる。なんか、あったかい」
ミナミ「うん。
ああいうバカがいるから、冬が嫌いになれない。」
白い世界。
三人の影が並んで、ゆっくりと伸びていく。
ミナミ「……かわいいね、ほんと。」
誰に言うでもなく、雪の匂いに溶けるように、そう呟いた。




