case.ミナミ #5「登校、モーゼ現象」
◆ 朝。校門。
いつからか、三人が歩くだけで空気が変わるようになった。
風が揺れ、視線が集まり、ざわめきが波になる。
彼女たちはもう、“登校してくる”んじゃない。
——降臨するんだ。
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先頭はレイナ。
テンションで世界を回すタイプ。
笑えば空気が弾け、誰かの一日が始まる。
「おっはよー! まだ寝てる奴、起こそっか?」
その一言で、眠ってた校門が一気に目を覚ます。
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続くのはアイカ。
無駄を嫌う観察者。
人の言葉より、目の奥の“本音”を見てるタイプ。
「レイナ、朝からうるさい。……けど、それがレイナか。」
冷静な声が、熱をちょうどよく中和する。
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そして最後に、ミナミ。
歩き方ひとつで空気が変わる。
髪の揺れに視線が吸い込まれ、沈黙がざわめきに変わる。
何もしてないのに、
誰もが“何かが起きそう”って思ってしまう。
「……通して。」
その一言で、人波が左右に割れる。
三人が通ったあとに残るのは、
柔らかな香りと、言葉にならない余韻。
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ミナミはふと、校門の外を振り返る。
春の陽射し、通りすぎる風。
どこか遠くで、自転車のベルが鳴る。
(今日も、完璧な朝。)
そう思った瞬間、胸の奥が少しだけ空洞になる。
誰もが彼女を見ているのに、
誰も“見抜けない”という孤独。
(……熱、欲しいな。)
それはまだ、誰にも聞こえない呟きだった。
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誰もまだ“ギャル神社”なんて呼んでなかった。
けれど、信仰はこの日、静かに始まっていた。
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【end:case.ミナミ #5「登校、モーゼ現象」】




