case.ミナミ#2「放課後バサバサ・パンデミック」
──最初のきっかけは、放課後のアイライン戦争だった。
廊下の鏡前で、女子たちが一斉にまつげ勝負してたあの日。
マスカラは武器、アイラインは覚悟。
全員、文化祭明けの余韻を引きずったまま、戦場に立ってた。
レイナ:「今日のバサバサ率、過去最高じゃね?」
アイカ:「あの一年の子……ビューラーの角度、プロだわ」
ミナミはふと、鏡越しに目を細めた。
一本後ろの教室。
窓際に座る男子。
教科書よりもギター雑誌とヘアスプレーのほうが馴染んでるタイプ。
ミナミ:「……あれが、“バサバサ好きのユウ”?」
レイナ:「そう、“まつげで恋するドラム野郎”って噂の」
アイカ:「ギャル好きなのに、ギャルに絡めないって話。観察対象としては、優良株ね」
レイナ:「ギャルフェチ男子、爆誕〜!」
ミナミ:「……いいじゃない。フェチって、正直さの象徴よ」
アイカ:「出た、ミナミの恋愛哲学」
ミナミ:「綺麗ごとよりも、“熱”が出るほうが人間らしいの」
──その瞬間。
ギャル神社は、まだ名前を持たないまま、動き始めていた。
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放課後。
一年の教室に、ふらりとミナミが現れた。
机にスティックを置いていたユウの前で、立ち止まる。
ミナミ:「ねぇ、ユウくん。君さ──」
ユウ:「え?」
ミナミ:「“バサバサ”、好きなんだって?」
その声は挑発的で、どこか優しかった。
教室の空気が、一瞬だけ甘くなる。
ユウ:「い、いや別に……」
ミナミ:「ふふ、目が泳いでる。図星?」
アイラインに縁取られた瞳が、軽く笑う。
ミナミ:「ま、いいじゃん。そういうフェチ、嫌いじゃないよ」
彼女は踵を返して去っていく。
残されたユウは、心臓がスネアのように鳴っていた。
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その夜、屋上。
沈む夕焼けの中、三柱が並んで座っていた。
ジュース缶のプルタブを開ける音が、やけに響く。
レイナ:「ミナミ、あの一年のこと気に入ったでしょ?」
ミナミ:「……惚れてない。けど、燃えた」
アイカ:「恋とは違うってこと?」
ミナミ:「恋よりも、熱。恋は目的。でも熱は、生きてる証明。」
レイナ:「はい出たー、“恋よりも熱”論。」
ミナミ:「だって青春って、理屈よりドラムの音でできてるでしょ?」
アイカ:「……名言風に聞こえるのずるい」
その笑い声が、校舎にこだまする。
三人はまだ知らない。
この瞬間の小さな熱が、やがて“ギャル神社”という信仰を生むことを。
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【end:case.ミナミ #2「バサバサと青春と貴族の午後」】




