case.ミナミ #1「信仰のはじまり」
──放課後。
風が昨日のライブの余韻をまだ運んでいた。
レイナ:「ねぇ、昨日の“ドラムの子”見た?」
アイカ:「見た。てかあの反射神経、普通じゃない。」
ミナミ:「……うん。あれは“恋”じゃない。“熱”だわ。」
三人の間で、缶コーヒーのプルタブが鳴る。
ギャル三柱──まだ“神社”と呼ばれる前の、ただの放課後女子会。
レイナ:「でも、今日の校内やばくない? どこ行っても“杏仁豆腐やばかった”って声しか聞こえん。」
アイカ:「うちのクラスの男子なんか、“ドラムの子にスティック貰ったら願い叶う”とか言ってたよ。」
ミナミ:「ふふ、それもう宗教じゃん。」
笑いながら、三人はペットボトルのキャップを転がす。
夕焼けのオレンジが頬を照らす。
レイナ:「てか、“ギャル神社”って単語も出てたよ?」
アイカ:「“三人のいる場所に恋の神が宿る”って。」
ミナミ:「……勝手に神にすんな。」
レイナ:「でも、なんかアガるじゃん?青春ってさ、信仰と紙一重じゃね?」
ミナミ:「信仰……」
ミナミはフェンスに手をかけ、空を見上げる。
昨日のライブみたいに、夕陽がまだ熱を残していた。
アイカ:「でも分かる。昨日のあのステージ、見た人全員、なんか“熱”持って帰ったもん。」
レイナ:「わかる! あの“ドラムの子”の顔! 青春すぎて免疫落ちた!」
ミナミ:「……あれはきっと、恋でも音楽でもない。“自分の中の何か”を叩いてたのよ。」
沈黙。
風が吹く。
三人の髪が、陽にきらめく。
アイカ:「……で、ミナミ。惚れた?」
レイナ:「惚れてない。……でも、燃えた。」
笑いが零れる。
その瞬間──空気が変わった。
三人がいるだけで、そこが“場所”になっていた。
誰も知らないうちに、人はそこへ願いを持ち込み、熱を取り戻していく。
“ギャル神社”は立っていない。
けれど、三柱が揃うとき、そこが神殿になる。
それが、“信仰のはじまり”だった。
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【end:case.ミナミ #1「信仰のはじまり」】




