case.ミナミ #0「バサバサと青春と貴族の午後」
青春は、いつだって爆発する。
笑いの中に、恋の中に、そして音の中に。
でもその“熱”を見つめていた者たちがいる。
誰よりも早く、それを感じ取り、名もなき衝動を崇拝した少女たち。
彼女たちは、まだ「ギャル神社」と呼ばれる前だった。
ただ、観測していた。
青春という現象を、恋よりも熱い“光”として。
──これは、青春を観測するギャルたちの物語。
燃える少年たちを、笑いながら見守る、女神たちの記録。
──学祭開幕。
匂いもノリも、まじで青春。
校門をくぐった瞬間、世界がカオスになってた。
焼きそばの煙、チョコバナナの甘ったるさ、吹奏楽の微ズレ。
まじで、文化祭の匂いって、青春のフェロモンなんだわ。
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◆屋上ベンチ。
ミナミ、レイナ、アイカ──通称“三柱”が人間観察モード。
レイナ「てかあれ見て! あのドラムの子、ヤバくね!?」
アイカ「“バサバサフェチの子”でしょ?」
レイナ「そうそう、“腰ラインの神”信者!」
ミナミはフランクフルトをかじりながら、髪をくるくる指に巻く。
ミナミ「でもね、フェチって正直さの象徴よ。
綺麗ごと抜きで、人間の“熱”が出る瞬間でしょ?」
レイナ「出た〜!ミナミの恋愛哲学講座〜!」
アイカ「ていうか、今日の昼ステージ出るんでしょ?見に行く?」
ミナミ「行く。……だって、“熱”が見たいんだもん。」
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◆ステージ裏──杏仁豆腐、開演前のドタバタ。
ダイキ「タクミ腹痛ぇぇぇって! 焼きそば食いすぎ!!」
ユウ「お前が“腹ごなしに演奏”とか言うからだろ!」
タクミ「大丈夫、ドラム叩けば消化するって!」
カズ「いや、出すほうのリズム刻むなよ!」
……すでに青春のIQが下がっていた。
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昼の校舎前特設ステージ。
観客の前列には三柱。
レイナはかき氷片手にノリノリ。
アイカは冷静にモニターを見る。
ミナミは──ただ一点、ステージ奥のドラムに目を向けていた。
そこにいたのは、切れ長の目の少年。
笑ってるけど、目の奥が燃えてた。
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◆タクミ、沈黙。
一曲目、爆盛り上がり。
観客大歓声。
でも──二曲目の途中で、空気が止まる。
タクミの視線が、観客席のある女子で固まった。
その顔は、元カノ。
伝説の“文化祭フラれ事件”の本人。
レイナ「え、まさかあの子……」
アイカ「うわ。伝説、再放送。」
ミナミ「……止まった。」
タクミのマイクが震える。
「……歌えない。」
静寂。
観客も息を呑む。
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◆咄嗟のカズ。
ギターを鳴らし、叫ぶ。
カズ「歌うぞ、杏仁豆腐ァァァ!」
観客「うおおお!!」
レイナ「ツインボーカル!? 予定外にもほどある!」
アイカ「でも、悪くない。混沌の美学。」
ユウが動いた。
空いたギターパートに手を伸ばす。
「ここ、俺がやる!」
ミナミ「……あの子、弾けたんだ。」
ドラムスティックを片手で放り、ギターを構える。
手汗で滑る指、ズレるリズム。
それでも、叫ぶようにかき鳴らす。
ユウ「タクミ!叩け!!」
タクミの腕が再び動く。
魂を叩きつけるビート。
涙みたいなリズム。
観客、総立ち。
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◆屋上の三柱、覚醒。
レイナ「なにこれ、やばっ!」
アイカ「熱が伝染してる。あれ、もう恋とかじゃない。」
ミナミ「……燃えてる。」
カズの声、ユウのギター、タクミのドラム。
偶然が奇跡に変わる瞬間。
風すら音楽になってた。
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◆曲が終わる。
割れんばかりの拍手。
汗と笑顔と、燃え尽きたような空気。
ミナミは腕を組んで、ふっと笑う。
レイナ「ねぇミナミ、惚れた?」
ミナミ「惚れてない。……でも、燃えた。」
アイカ「ほら、神降臨。ギャル神社、開幕だね。」
──この日、“ギャル神社”が誕生した。
恋よりも熱。
それが、三柱の信仰。
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【end:case.ミナミ「バサバサと青春と貴族の午後」】




