下駄箱バレンタイン ― 甘き誤配と供物の午後 ―
──2月14日、朝。
昇降口に冬の光。
風の冷たさに、どこか浮ついた気配。
ダイキ「なぁ……今日こそ、来るだろ。」
カズ「毎年言ってるけど、根拠は?」
タクミ「信仰の域に入ってるな。」
──ガラッ。
カズが下駄箱を開けた。
カズ「……おい、なんか入ってる!」
ダイキ「マジか!?俺のにも!」
タクミ「……あ、こっちもだ。」
三人の手に同じ包装の小さな包み。
ダイキ「これ……全員分ってことか!?」
カズ「ついに来た、チョコの奇跡。」
タクミ「宗教的テンションやめろ。」
──そこに、少し遅れてユウがやってくる。
ユウ「おはよ。……なんか賑やかだな。」
カズ「見ろよ、チョコ入ってた!」
ユウ「へぇ、すげぇじゃん。」
ダイキ「ユウのとこも見てみろよ!」
ユウ「あ、あぁ……」
──ガラッ。
ユウの下駄箱。
──空。
一瞬、全員が黙る。
カズ「……ないな。」
タクミ「……これは気まずい。」
ダイキ「物理的格差、発生。」
ユウ「い、いや、全然!ほら、俺、バレンタインとか興味ないタイプだから!」
カズ「強がり、震えてるぞ。」
ダイキ「心の方がチョコ溶けてんじゃね?」
⸻
──昼休み。
机の上には三つのチョコ。
男子三人が包みを見つめる。
タクミ「差出人、同じだな。」
カズ「カード入り……開ける?」
ダイキ「いや、これは慎重にいこう。
“恋の火薬庫”だ。」
ユウは後ろで静かに見ていた。
⸻
ドアが開く。
四柱+マナティ、神々しく登場。
レイナ「なにその恋の裁判所みたいな空気〜!」
マナティ「ふふっ、男子も可愛いね♡」
アイカ「観測:恋愛熱、軽度の発火。」
ミナミ「……で?ユウは?」
ユウ「俺? 入ってなかったっす。」
沈黙。
アイカが眉を上げ、レイナが「まじで?」と笑う。
ミナミ「……仕方ないわね。」
四人、紙袋を取り出す。
マナティ「神々の供物♡ おすそ分け〜!」
レイナ「供物はシェアすべし!」
アイカ「再分配、合理的。」
ミナミ「……別に、あげないとは言ってない。」
カズ「い、いやいや!俺らは、その……!」
タクミ「すでに義理ルート確保済みで……!」
ダイキ「受領上限、突破してて……!」
三人が全力で断る。
ユウだけ、反射的に手を伸ばした。
ユウ「……ありがたく、頂きます。」
全員「お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
レイナ「あー!やっぱ豆、素直すぎ!」
ミナミ「……まぁ、受け取るのも才能でしょ。」
マナティ「“素直=魅力”ってデータ出てるし♡」
⸻
レイナ「でもさ、そのチョコ、開けてないんでしょ?開けよ!」
カズ「いや、まだ……!」
レイナ「開封ぅ〜!」
──ビリッ。
カードが出てくる。
「いつもありがとう。」
全員が息を呑む。
タクミ「……シンプル。」
カズ「これは、温かい系。」
ダイキ「字が……優しいな。」
レイナ「ん?下のとこに……」
by 豆
空気、完全静止。
全員「お前かぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
⸻
ユウ「いや、違う!感謝の気持ち的なやつで!」
ダイキ「優しさの押し売り!!」
カズ「感謝チョコで社会混乱起こすな!」
タクミ「善意のテロリズム。」
ミナミ(微笑)「……でも、いいじゃない。
“ありがとう”って言葉、恋よりレアだから。」
マナティ「うん、それキュンデータ更新♡」
アイカ「観測結果:羞恥と誠実、反比例。」
レイナ「豆、マジでバカでいいわ。」
⸻
──放課後。
昇降口。
ユウの下駄箱に、小さな包み。
「こっちも、ありがとう。
by 観測者」
ユウは笑ってつぶやいた。
「……観測って便利だな。」
外では、粉雪が静かに舞っていた。
恋も義理も越えて、
その日いちばん甘かったのは——照れ隠しだった。




