恋か不整脈か ― 青春動悸の誤診 ―
昼休み。
教室の空気がざわざわしていた。
パンの袋を開ける音、笑い声、スマホの通知音。
その全部の下で、ひそひそと流れる噂があった。
カズ「なぁ、聞いた? 三年の佐伯先輩、ミナミ先輩に告白するらしい。」
ダイキ「マジで!? あの“イケメン界の終着駅”が!?」
タクミ「こりゃ校内の空気、酸素薄くなるぞ……」
ユウ「……え。」
手が止まった。
パンの欠片が落ちる。
一瞬だけ、教室の音が遠のいた。
カズ「どうした?ユウ。」
ユウ「いや……なんか、心臓変じゃね。」
タクミ「恋だろそれ。」
ユウ「いや、内臓だと思う。」
ダイキ「恋愛初心者すぎて内科案件出た!!」
⸻
◆ 放課後。
渡り廊下。
ミナミが佐伯先輩に呼び出されていた。
夕日がガラスに反射して、光の線が二人を囲む。
ユウは、廊下の陰から何気なく見てしまう。
──ほんとは、何気なくじゃない。
ミナミが何かを聞いて、小さく笑った。
その笑顔が、胸の奥をチクッと刺した。
ユウ(心の声)
「……別に、誰が誰を好きでもいいじゃん。
あの人は綺麗だし、モテるし。
……でもなんで、笑ってんの見ただけで、呼吸乱れるんだ?」
風が吹いて、ミナミの髪が動いた。
それだけで、鼓動が二拍ズレる。
ユウ「……やべ、不整脈だ。」
タクミ「いや恋だよ。」
ユウ「違う。たぶん急に立ったから血圧が。」
ダイキ「現実逃避の方向が医療。」
⸻
◆ 翌日。
朝の教室は静かだった。
けどその静けさは“嵐の前の静けさ”だった。
カズ「なぁ、噂聞いた?」
ダイキ「まさか……!」
カズ「ミナミ先輩、断ったらしい。」
沈黙。
ユウが小さく息を呑む。
誰も何も言わない。
タクミ「……顔、真っ赤だぞ。」
ユウ「……寒いから。」
カズ「目、うるんでる。」
ユウ「……花粉だよ。」
ダイキ「季節、冬だぞ。」
タクミ「なぁユウ。お前、気づいてんのか?」
ユウ「何を?」
タクミ「自分が恋してることに、だよ。」
ユウ「……いや、心臓がバグってるだけだと思う。
昨日、寝る前に牛丼食ったし。」
三人「いや、恋ぃぃぃ!!!」
⸻
◆ 放課後、昇降口。
靴を履き替えていると、
背後でヒールの音。
ミナミ「……顔色、悪いわよ?」
ユウ「あ、いや、血の巡りが……」
ミナミ「病気?」
ユウ「……不整脈かもしれないっす。」
ミナミ「……恋ね。」
ユウ「はい、不整脈っす。」
ミナミ「……まぁ、どっちでも青春よ。」
小さく笑って、彼女は去っていく。
ユウは、胸に手を当てた。
「……おかしいな。治らねぇ。」
⸻
◆ 翌朝。
保健室前。
ユウが申請書を書いている。
理由欄:「胸の動きが激しい」
カズ「それもう病気じゃなくて、感情だろ。」
ダイキ「青春って心拍計で測れんのかな?」
タクミ「いや、お前らもう書くな。あいつ、恋を誤診してんだよ。」
窓の外、ミナミが通る。
風が髪を揺らす。
ユウの心臓がまたドクンと跳ねる。
ユウ「……うわ、また脈ズレた。」
──青春、誤診中。




