理想の犬、放課後に吠える
──放課後の教室。
光がゆるく傾いて、黒板のチョーク跡が金色に浮かぶ。
ユウがパンをかじりながら言った。
「ホストって、犬じゃね?」
タクミ:「……出たよ。」
ダイキ:「恋愛哲学、今日も元気。」
カズ:「もう“吠える青春”ってタイトルでいいだろ。」
ユウ:「だってさ、呼ばれたら走って、褒められたらしっぽ振る。忠誠心すげぇ。」
タクミ:「褒められたい犬の顔して言うな。」
ダイキ:「あの文化祭から、何も学んでねぇ。」
──そのとき。
教室のドアが開いた。
光が差して、髪が揺れた。
三柱。
ミナミ、アイカ、レイナ。
そして、同じクラスのマナティ。
彼女たちが並んだ瞬間、空気が少し変わる。
ただの放課後が、ギャル神社になる。
レイナ:「なに話してんの?」
ユウ:「犬の話。」
アイカ:「……犬?」
ミナミ:「また妙な理屈で遊んでるのね。」
マナ:「ふふ、かわいいじゃん。誰が犬?」
レイナがアイカの肩を小突いて、小声で。
「ねぇ……犬ってさ、男のことだよね?」
「……多分。」
「だよね?」
ミナミは少し笑って、「まぁ、そう取るわよね。」
ユウ:「え、いや、犬は犬っす。」
四人:「……?」
レイナ:「あたしは〜、甘えん坊!呼んだらすぐ来るタイプ!」
アイカ:「私は、静かで頭いい子。目を見れば通じるやつ。」
ミナミ:「忠誠って、美徳じゃない。でも、報われなくても動けるのは、悪くない。」
マナ:「わたしは、ふわふわしてて、たまに噛む子。……可愛いでしょ?」
ユウ:「なるほど。」
タクミ:「いや、なるほどじゃねぇよ。」
カズ:「お前、全部メモってるけど何に使う気?」
ユウ:「統計。」
ダイキ:「出た、恋愛社会学部。」
ユウが黒板に書く。
『ミナミ先輩=サモエド、アイカ先輩=ボーダーコリー、レイナ先輩=チワワ、マナティ=ポメラニアン』
沈黙。
レイナ:「チワワってなにそれ!」
アイカ:「……吠えるけど愛される、まぁ間違ってない。」
マナ:「ポメ? あ、うれしい。可愛い系ってことだね?」
ミナミ:「観察眼だけは……ほんと、鋭いのね。」
笑いがこぼれる。
夕陽が机を照らし、空気がやわらかくなった。
ユウ:「でもさ、しっぽ振ってるほうが本気だと思う。」
レイナ:「青春、だいたいしっぽ振ってんもんね!」
アイカ:「……見てる人がいる限りね。」
マナ:「しっぽって、照れ隠しだと思うよ。……ね、ユウ。」
ユウ:「……まじでバカにしてる?」
マナ:「ちょっとだけ。」
ミナミ:「……ほんと、静かにしてても騒がしい子たちね。」
チャイムが鳴る。
風がノートをめくり、光が黒板をなでていく。
ミナミが一言、落とした。
「……ほんと、バカで。いい。」
その声が、夕焼けの中で少し笑っていた。
──青春の放課後、吠える音はまだ消えない。




