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微熱とポカリの妖精
──放課後。
ユウは練習中にふらついた。
カズ「おい、顔赤いぞ?」
タクミ「寝不足じゃね?」
ダイキ「青春の熱だろ〜!」
ユウ「……ちが、う……かも。」
笑い声が遠のく。
ドラムスティックが床を転がる音を最後に、
視界が白くなった。
——記憶は、そこまで。
⸻
目を開けたら、もう夜だった。
自分の部屋、ベッドの上。
隣の机に、冷えたポカリスエット。
キャップに黒マジックで、細く一言。
「観測終了。」
ユウ「……夢?」
その瞬間、ふわっと甘い香りがした。
ポカリの匂いじゃない。
どこか花みたいで、風みたいな匂い。
——知ってる匂いだった。
⸻
翌朝。
杏仁豆腐が教室で集まっていた。
ダイキ「復活のユウ!」
カズ「妖精でも来たのか?」
ユウ「……ポカリの妖精。甘い匂いした。」
タクミ「まだ幻覚見てるじゃん。」
笑いが弾ける。
でもユウだけは、窓の外を一度だけ見た。
朝の風がカーテンを揺らし、
ほんの一瞬、また同じ香りがした。
——観測は、確かに終わって。
——でも、温度は残っていた。




