白銀の暴走アート
放課後。
チャイムが鳴り終わっても、校庭には俺たちの笑い声が響いていた。
「雪降ってきたな!」
ダイキが叫ぶ。
空からふわり、白い結晶。
誰かが「青春っぽいな」って呟いた瞬間、もう止まらなかった。
「よし、雪像つくろーぜ!」
杏仁豆腐(俺たちのバンド)は、いつもノリだけで動く。
でも、そこがいい。
それが青春だ。
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◆ カズ:仏に魂を込めた男
カズ「俺、こう見えて美術5だから」
雪を固め、手際よく形を作っていく。
仕上がったのは、見事な合掌ポーズの仏像。
ユウ「いや、リアルすぎるだろ! 芸術祭出せるレベル!」
ダイキ「拝める……“雪に咲いた悟り”だ……!」
タクミ「南無阿弥陀雪像ってタイトルでいい?」
カズ「やめろw」
⸻
◆ タクミ:王道を極めし雪の貴公子
タクミ「俺はシンプルに雪だるまで」
端正な顔立ちに負けない完成度。
丸み、バランス、表情。全部が完璧。
女子たち「タクミくんの雪だるま、イケメンすぎ~♡」
ユウ「お前、雪にまでモテるとか聞いたことねぇ!」
カズ「イケ雪だるま誕生」
ダイキ「嫉妬で雪が溶ける」
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◆ ダイキ:胃袋のロマンチスト
ダイキ「俺は……雪でラーメン作る!!」
ユウ「発想からして腹減ってるな」
ラーメン丼をかたどり、枝でチャーシューを、葉っぱでネギを表現。
息で「ふぅ~」と湯気を演出。
タクミ「うまそう……でも絶対冷たい……」
カズ「この人、雪でも飯テロしてくる」
ユウ「俺もう心が寒い」
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◆ そして俺:暴走のはじまり
ユウ「ドラゴン作る!青春はドラゴンだろ!」
全員「お前の青春の比喩、毎回意味わかんねぇんだよ」
勢いで雪を掘り、積み、丸め、整え……
10分後、俺は確信した。
「できた!!」
全員「……………………」
目の前には、全長180センチの——完璧なフォルムのちんこ雪像。
カズ「……いや、もうそれ“悟り”超えてるぞ」
タクミ「完成度が高いのが逆に怖ぇ」
ダイキ「お前、才能の方向間違えたんだよ」
ユウ「ちがう!ドラゴンなんだって!!!」
カズ「どこがだよw」
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そして、そのとき。
ヒールの音が響いた。
「カツ、カツ、カツ……」
冷気の中を、凛とした声が突き刺す。
安藤先生「……なにこれ?」
全員、凍る。
(雪より冷たい空気)
ユウ「せ、先生……これはその、芸術です」
ダイキ「青春の結晶っす」
カズ「魂の造形……っす」
タクミ「……俺は止めたんすけどね」
安藤先生、スッと髪をかき上げる。
銀縁メガネが光を反射した。
静寂の中、ゆっくりと息を吸い込み——
「公然猥褻――――!!!」
次の瞬間、ヒールで軸を取り、後ろ回し蹴り炸裂!!
雪像、爆散!!!!
粉雪がスローモーションで宙を舞う。
男子全員「キュッッッ!!!!!」(全員、両手で股間ガード)
タクミ「せ、先生、破壊力が現実……!」
ダイキ「心まで冷えたぁぁぁ……!」
カズ「仏より尊い一撃だった……」
ユウ「青春が吹っ飛んだ……っ!」
安藤先生「次やったら、性教育の教材として掲示するからね」
全員「それだけはやめてぇぇぇ!!!」
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翌日。
校内掲示板に貼られた新聞。
《校庭に出現!“謎の芸術作品”一晩で消滅》
〜関係者は「青春の暴走」とコメント〜
ユウ「関係者って俺らだよな……」
ダイキ「俺たちの芸術は……雪とともに散ったんだ……」
カズ「新聞デビューがこれとか一生ネタだろ」
タクミ「てか、また校長に呼ばれるなこれ」
そこへ安藤先生が通りかかる。
「はいはい、今日の放課後、反省会ね」
ユウ「なに話すんすか」
安藤先生「“公序良俗と造形美の狭間”について」
カズ「それ絶対真面目なやつじゃん!」
ダイキ「でもたぶん俺ら笑って終わるやつ!」
ユウ「青春だな……(遠い目)」
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その夕暮れ、雪がまた降り出した。
真っ白な世界に、笑い声が響く。
手がかじかんでも、バカみたいに笑えるのは、
きっと今が青春だから。
風が吹くたびに思う。
——この冬も、バカでよかった。