顧問とパンツと青春のはじまり
◆ 放課後、職員室前。
ユウ「なぁ、顧問って誰に頼めばいいと思う?」
カズ「そりゃもう、あの人しかいねぇだろ」
ダイキ「安藤先生!うちの女神であり昆布マスター!」
タクミ「昆布マスターて……」
—
(コンコン)
ユウ「失礼しまーす!安藤先生、ちょっとお願いが!」
ヒールの音、コツ、コツ。
背の高い女教師・安藤先生が、黒のパンツスーツ姿で振り向く。
その手には例によって“おしゃぶり昆布”。
安藤先生「またアンタたち? 今度は何やらかしたの」
ユウ「やらかしてないです!あの、バンドの……えっと……部を作りたくて!」
安藤先生「部活?」
カズ「はい、“杏仁豆腐部”です!」
安藤先生「……は?」
ダイキ「スイーツっぽいけどロックなんです!」
タクミ「説明になってねぇ」
先生はしばらく沈黙し、ふぅ、と息をついた。
「ま、アンタらなら何かしらやらかすでしょうし……面白そうじゃない」
ユウ「え、それってつまり……!」
安藤先生「顧問、引き受けるわ」
全員「うおおおおおお!!!安藤先生ーーーッ!!」
ダイキ「昆布バンザーイ!!」
先生「うるさい。条件はひとつ、掃除くらいはちゃんとしなさい」
—
◆ 旧音楽室・その扉の向こう。
ガラッ。
ユウ「……なんだここ」
埃、クモの巣、崩れかけた譜面台。
まるで文化財指定寸前の廃墟。
ダイキ「ここが……俺たちの部室……?」
カズ「なんか青春よりサビの匂いが強ぇな」
タクミ「まあ、まずは掃除だな」
—
◆ 青春掃除大作戦。
ほうきを片手に、男子4人の戦いが始まる。
ユウ「おい、これ何年モノのカセットだよ」
カズ「“愛のバリトンサンバ”……?」
ダイキ「タイトル濃すぎる!」
タクミ「お前ら、ふざけてないで進めろ」
—
◆ そして、事件は起こる。
ユウ「この箱、なんだろ」
(ガサッ)
ピンクの布がヒラリ。
ダイキ「……パンツ?」
タクミ「違う、衣装だろ……な?」
カズ「触んな!!お前そういうときの手早さ異常!!」
ユウ「ち、違うって!!!」
その瞬間——
ヒールの音、コツ、コツ。
安藤先生「……アンタら、何してんの?」
全員「違うんです!!!!!」
先生、腕を組み、例のおしゃぶり昆布を噛みながら首を傾げる。
「ふぅん。掃除してたらパンツが出てきたと」
ユウ「バンド衣装です!!!」
安藤先生「……試着してみる?」
全員「しません!!!」
(ふっと笑って)
「青春ってのはね、何かしら“恥”がつきものよ」
そう言って去っていく先生。
ヒールの音がまた静かな廊下に響いた。
—
カズ「……なんか、あの人かっこいいよな」
タクミ「昆布噛みながら名言吐く女教師、貴重すぎる」
ダイキ「昆布顧問、最高!」
ユウ「杏仁豆腐部、誕生!!!」
—
そして、部室の隅。
ユウが拾い上げた“ピンクの布”のタグには、手書きでこう書かれていた。
《ミナミ》
ユウ「……え。」
(ざわめく心臓)
新しい部活、新しい居場所。
そして、あの名前。
——杏仁豆腐部の青春、ここからさらにカオスに加速する。