放課後トリックオアトリート
ガヤガヤと騒ぐ放課後の廊下。
俺たち杏仁豆腐、仮装のまま職員室前で密談中。
ユウ「先生にもトリックオアトリートだな!」
ダイキ「お菓子ゲットして帰ろうぜ!」
カズ「その発想がすでにトリックだよ」
タクミ「……職員室、まだ灯りついてるぞ」
その時——
カツ、カツ、カツ。
ヒールの音。
ゆっくり近づいてくるその足音に、俺たちの背筋がピシッと伸びた。
安藤先生「アンタら、また集団で何やってんの?」
登場。
ロングコートを翻し、髪をまとめ、目元にはほんの疲れと気品。
背が高くて、ほんのり香水の匂い。
“叱る前に絵になる”タイプの大人だ。
ユウ「……先生、今ちょうど“青春の延長戦”をしてまして」
安藤先生「試合終了よ。放課後って時点で負け試合」
ダイキ「辛口ぃ〜!」
でも、先生の口元にはちょっと笑みが浮かんでる。
ユウ「というわけで先生、トリックオアトリート!」
安藤先生「はぁ? 職員に仕掛けるんじゃないの」
カズ「大丈夫です、心は永遠の少年なんで!」
タクミ「(フォローになってない)」
先生はため息をつきながら、コートのポケットを探る。
安藤先生「まったく……。
アンタたち、ほんと昔の元カレに似てるのよ。口だけで、いざって時に逃げるタイプ」
ユウ「……また出た元カレシリーズ」
ダイキ「先生、続き聞きたい!」
カズ「確か、シンナー吸ったやつに絡まれたんだっけ」
安藤先生「そう。
私を置いてダッシュで逃げたの。だから、ヒールでそいつぶん殴ったのよ。」
全員「つっよ!!!」
そのまま、先生は引き出しから順にお菓子を配る。
安藤先生「ほら、チョコ」
タクミ「ありがとうございます」
安藤先生「キャンディ」
カズ「優しい味です先生」
安藤先生「うまい棒」
ダイキ「神対応!」
ユウ「じゃあ俺は……?」
安藤先生「はい、これ」
手のひらに乗ったのは——
懐かしのおしゃぶり昆布。
ユウ「……先生、これはもしかして」
安藤先生「“再犯防止キャンペーン”よ。授業中に食べてた前科者はこれ一択」
ユウ「俺、昆布に呪われてる!?」
カズ「でも先生の愛情の味じゃん」
ダイキ「いや塩分濃いだろ」
タクミ「青春=塩味、だな」
先生はヒールを鳴らして背を向ける。
安藤先生「いい? 女に“トリックオアトリート”なんて軽々しく言うんじゃないの。
いたずらする側は、いつだって私たちよ。」
そのまま職員室の扉を開け、
「早く帰りなさい」と言い残して、
ヒールの音を残して去っていった。
カツ、カツ、カツ——。
ユウ「……先生、マジで惚れる」
ダイキ「お前、フェチどんどん増えてるぞ」
カズ「でもヒール音は確かに刺さる」
タクミ「うん、完全にBGMが鳴ってたな」
廊下に笑い声が残る。
手には昆布、胸には少しの憧れ。
——青春、ヒールの音と塩味昆布の香り。