バサバサパンデミック!〜恋と誤解とアイライン〜
昼休み、購買前のベンチ。
あんパンをかじる俺ら4人の間で、いつも通りどうでもいい会話が始まった。
ユウ「なあ、お前ら。どんな子がタイプなん?」
ダイキ「お、出た!青春会議〜!」
カズ「どうせまたユウが変なこと言うやつだろ」
ユウ「変じゃねぇ!純粋な研究だよ。青春の探求」
タクミ「探求先が下心なんだよ」
ユウ「うるせぇ!俺はな、腰フェチなんだよ」
カズ「ほら始まった」
ダイキ「お前のフェチっていつも物理的だよな」
ユウ「いや聞け!ビーナスのエクボ、あれ最高じゃね?あとアイライン濃い人!まつげバサバサ!」
タクミ「それゾンビじゃん」
ユウ「違うっ!!生命力の象徴だよ!」
カズ「いやもう“バサバサ”しか残ってないけどな」
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そこへ、通りすがりの女子たちの声。
女子A「ねぇ、“杏仁豆腐”のユウくんって、アイライン濃い子がタイプなんだって」
女子B「腰フェチでバサバサが好きなんでしょ?」
女子C「なんか語感だけ聞くと不安になるんだけど」
ユウ「ちょっ、どっから情報漏れてんの!?」
ダイキ「お前が購買で“ビーナスのエクボ最高!”って叫んでただろ」
ユウ「……公開処刑かよ!」
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翌日。
廊下を歩くと、女子たちの視線がやけに熱い。
いや、正確に言うと――目の周りが黒い。全員。
ユウ「……なんか今日、廊下まぶしくない?」
カズ「お前のせいでアイライン文化が進化してる」
ダイキ「もはやバサバサパンデミックだな」
タクミ「お前、感染源」
ユウ「ちょ、なんで俺がウイルス扱い!?」
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そんな中、購買に現れた“本家”がいた。
ポニーテールを揺らし、鋭くも綺麗な目元。
ミナミ先輩だ。
ユウ「(……で、出た……アイラインの完成形……)」
ダイキ「おい、口開いてる」
タクミ「閉じろ、涎垂れてる」
ミナミ先輩がこちらに歩いてくる。
あの目で、まっすぐユウを見て。
ミナミ先輩「ねぇ、あんたが“バサバサ好きのユウ”?」
ユウ「!!?!?えっ、えっ、ち、違っ……その、これは文化的誤解でして!」
ミナミ先輩「ふーん。じゃあ、どのくらい好きなの?」
ユウ「そ、それは……あの、視界が翳るくらい……?」
ミナミ先輩「……変態だね、あんた」
ユウ「誤診だぁぁぁ!!」
カズ「おめでとう、公式に誤解確定」
ダイキ「パンデミック拡大中!」
タクミ「青春の終焉は早かったな」
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放課後、帰りのチャリで。
ユウ「俺、明日からマスクしてくわ……アイラインウイルス拡散防止」
カズ「自覚ある感染源」
ダイキ「でもよ、笑ってくれたじゃん、ミナミ先輩」
ユウ「……見えた?」
タクミ「ちょっとだけ、口角上がってたな」
ユウ「…………ワクチンできたかも」
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夕暮れの風がバサバサ吹く。
それはまるで、恋と誤解が空に舞い上がる音だった。