文化祭当日!
露店のドタバタ
校門をくぐると、いつもの校舎がまるで遊園地みたいになっていた。
焼きそばの香り、わたあめの甘い匂い、かき氷のカラフルな旗。
「すげぇ!腹減った!」
ダイキが最初から全開。
「お前、開会式より早く焼きそばに並ぶな!」
俺たちも気がつけば焼きそば、フランクフルト、たこ焼き……両手に屋台メシ。
「お前ら、ステージ前に食いすぎて動けなくなるぞ」
「大丈夫、腹ごなしに演奏するから!」
(完全にフラグ)
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他校の来場者
昼頃になると、校舎の廊下は他校の生徒であふれていた。
「え、他校の女子めっちゃ来てんじゃん!」
「杏仁豆腐、見に来るって噂になってんだぜ」
「マジで!?俺らモテ期到来!?」
……そんなテンションの中、タクミの顔色が変わった。
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因縁の女子
人混みの向こうに立っていたのは、制服の違う女子。
長い髪を揺らしながら、まっすぐこちらを見る。
「……あ」
タクミが足を止める。
あの女子――かつてタクミが告白して、手酷く振られた相手だった。
笑顔の裏で冷たく切り捨てた、あの声。
ダイキが気づき、小声で俺たちに囁く。
「やば、あいつが伝説の……」
「今ここで来るかよ!」
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ステージ直前
「……歌えるか?」
俺がタクミに声をかけると、彼は無理に笑って頷いた。
「大丈夫、大丈夫だって」
――でも、その手は震えていた。
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ステージ
最初の曲は盛り上がった。
観客も手拍子をして、ノリは最高。
女子の歓声も飛んでくる。
……けれど二曲目。
タクミの視線が、観客席の彼女に絡んでしまった。
マイクを握る声が震える。
歌えない。
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咄嗟のフォロー
沈黙を破ったのは、カズだった。
ギターを弾きながら、自然に歌に入る。
「……っ!」
観客は気づかない。
むしろ「おお!ツインボーカル!?」と歓声が上がる。
その瞬間、俺は決断した。
空いたギターパートに手を伸ばす。
「ここは……俺がやる!」
リズム感壊滅の俺が、必死でコードを追いかける。
手汗で指板が滑る、それでも歯を食いしばってかき鳴らす。
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タクミの選んだ答え
タクミは震える手でマイクを下ろした。
そして――ドラムセットの後ろに座る。
「……タクミ!?」
次の瞬間、彼は無心でドラムを叩き始めた。
感情を叩きつけるようなビート。
叫ぶような音。
観客は、その迫力に息を呑んだ。
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観客の反応
「やばっ!ボーカルがドラム叩いてんぞ!」
「かっけぇぇぇ!!」
「何この展開!鳥肌立つ!」
観客の熱気は逆に最高潮へ。
カズの声、俺のギター、ダイキのベース、そしてタクミのドラム。
予定外の構成が、奇跡みたいにひとつになった。
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ラスト
曲が終わった瞬間、割れんばかりの拍手。
ステージの上で息を切らす俺たち。
タクミは黙ったまま、ほんの一瞬だけ笑った。
――それはきっと、今までで一番カッコいい笑顔だった。