歌詞持ち寄り会
放課後、音楽室に集まった俺たち。
「各自、歌詞を書いてきたか?」
カズが仕切りモードで言うと、全員ニヤニヤしながらプリントやノートを取り出した。
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タクミ(イケメンボーカル)
「まずは俺からな」
タクミが堂々とノートを広げる。
『光の向こうに 未来が呼んでる
夢を掴むのは 今この瞬間』
「お前、王道すぎ!」
カズが即ツッコミ。
「いや、ボーカルはこれくらいポジティブじゃなきゃ!」
「少女漫画の巻頭カラーかよ!」
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ダイキ(色黒ぽっちゃり・腐)
次はダイキ。
「俺のはちょっと大人っぽくした!」
『君の汗に濡れた背中が
僕の視線を奪っていく』
「やめろーーーーッ!」
全員が一斉に机を叩いた。
「腐ってる!完全に腐ってるぞ!」
「文化祭で歌えねぇだろ!」
「青春コメディじゃなくてBL劇場になるわ!」
ダイキはケラケラ笑って「狙い通り♪」。
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カズ(ニコニコツッコミ)
カズはさらっと。
『放課後チャリで駆け抜けろ
笑い声は校舎を揺らす』
「……あれ?普通に良くない?」
「青春ソングっぽいな!」
「お前が一番安定してるのズルいわ」
カズは照れ笑い。
「いやいや、これくらいフツーでいいのよ」
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ユウ(俺・リズム感壊滅)
全員の視線が俺に集まる。
俺はノートをゆっくり広げた。
『世界が灰色に沈む
僕は影に溶けて消えたい
笑う声が遠すぎて
ここに僕はいらない』
……シーン。
「お前、どうした!?」
「重い!めっちゃ重い!」
「ホラー映画のエンディングやん!」
俺は真剣に言う。
「いや、これが俺の魂なんだ」
全員が頭を抱える。
「杏仁豆腐って名前でこの歌詞はギャップがすごすぎる!」
「バンド名詐欺だろ!」
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結果
結局、4人の歌詞を混ぜて1曲にする案が出る。
「光と夢で始まって」
「途中で汗だく背中出てきて」
「サビでチャリ全力疾走」
「最後に世界が灰色に沈む」
「まとまるわけねぇだろ!」
爆笑で終わった、歌詞持ち寄り会だった。
ネガティブの輝き
次の日のスタジオ。
昨日の「歌詞大爆笑大会」のノリを引きずりつつ、とりあえず音をつけてみることになった。
「ユウのやつ、どうせなら一回合わせてみようぜ」
タクミが笑いながら言う。
「えぇ……?あんな暗いのに?」
カズが首をひねる。
「いいじゃん、逆にカッコいいかも!」
ダイキはなぜかノリノリ。
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試しに合わせてみたら
タクミが歌い出す。
『世界が灰色に沈む
僕は影に溶けて消えたい』
低めの声で歌った瞬間、空気が変わった。
ギターのリフが乗り、ベースが支え、ドラム(=俺)は必死でリズムを追う。
「……あれ?」
「意外と……良くね?」
「おいおい、ダークでカッコいいんだけど!」
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ネガティブが武器に
「やべぇ、鳥肌立った」
カズが本気で驚いている。
「暗いけど、むしろインパクト強すぎ!」
「これ……杏仁豆腐の方向性、決まっちゃったんじゃね?」
タクミまで真顔で言う。
俺は照れ隠しに頭をかく。
「いや、俺の黒歴史ノートが武器になるとか思わんかったわ」
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「ただし!」
カズが指を立てる。
「サビでいきなり『チャリで駆け抜けろ!』が入るのはどうしても笑う」
「そこは消せねぇだろ!杏仁豆腐らしさだから!」
「灰色の世界からチャリで脱出すんな!」
スタジオはまた爆笑に包まれた。
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こうして――
俺のネガティブ歌詞は、バンドの大黒柱になってしまったのだった。