オレオ誤報事件 ― 甘さと誤解とカカオの午後 ―
放課後、旧音楽室。
ちゃぶ台にオレオと笑い声。
杏仁豆腐は今日も、真面目にバカをやっていた。
ユウ「……俺、好きなんだよ」
カズ「おっ、恋バナ?」
タクミ「どうせミナミ先輩の話だろ?」
ユウ「いや、たぶんミナミ先輩もオレオ好きだよな?」
(オレオ、ボリボリ)
ダイキ「お菓子の話かよ!」
カズ「いや、言い方が誤解生むタイプ!」
タクミ「毎回、発音が青春クラッシャーなんだよ!」
──その“音”は、外にも漏れた。
廊下を歩く女子たちの耳に。
「……ミナミ先輩も、俺を好きだよな?」
──空気が止まり、次の瞬間、弾けた。
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◆ 校内、誤解感染中。
「ユウが“ミナミ先輩、俺を好きだよな”って言ってた!」
「杏仁豆腐とミナミってやっぱ……!」
「恋始まったじゃん!!」
噂は、音速で燃え広がった。
根拠ゼロ、温度100。
それが青春だ。
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◆ ギャル神社(昼休み)
レイナ「ねぇミナミ、聞いた? “俺を好きだよな”って」
アイカ「またユウの爆音誤解シリーズ。」
ミナミ「……くだらない。あんなバカに惚れてるみたいに言われるとか、ムカつく。」
レイナ「顔ちょっと赤いけど?」
アイカ「ムカつくって言いながら、テンション上がってんじゃん。」
ミナミ「……黙れ。」
(バカの言葉なのに、刺す言い方する。ああもう、ムカつく。)
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◆ 放課後・旧音楽室
ドラムの音が止む。
静けさを割って、スニーカーの音が近づく。
ミナミ「ねぇ、ユウ」
ユウ「は、はい!」
ミナミ「“好き”って、どういう意味?」
ユウ「え? オレオっすけど?」
ミナミ「……俺を?」
ユウ「はい、オレオです!ミナミ先輩も、オレオ好きですよね?」
(俺を…何?その自信……聞き方、ずるい)
ミナミ「……まぁ、嫌いじゃない」
ユウ「よかった!嬉しいです!」
──オレオを差し出す。
沈黙。
ミナミ、ふっと息をこぼす。
(お、お菓子ね……)
そのとき、廊下の向こうから声が飛ぶ。
レイナ「オレオかよ!!!」
アイカ「恋の名にしてはカロリー高ぇな!!」
ユウ「???」
ミナミ「……ほんと、バカ。」
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夕陽に溶けるチョコの香りと笑い声。
“俺を”と“オレオ”。
その一文字差で、恋とバカが混ざり合う午後。




