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エッセイ・短編 クスッとほっこり

観察者

作者: ぽんこつ

カフェでのんびり人間観察をするのが、私のちょっとした趣味だ。

いや、生活の一部になっているかもしれない。


最初は退屈しのぎだった。でもいつの間にか、人の動きやしぐさを見てると、その人の人生を勝手に想像してしまうようになった。

悪い癖だと思いつつ、今では「おひとり様カフェ時間=観察タイム」と脳が勝手に設定してしまっている。


お気に入りの窓際の席に座って、あったかいカフェラテを飲みながら、目の前を行き交う人たちをぼんやり眺める。

今日の観察ターゲット(というと物騒だけど)は多彩だ。



「赤ちゃんをあやしてるパパ、ただ者じゃない。あのずんずんって揺れ、たぶん“かつてベースを弾いてた”リズム感」

「スマホを見ながらため息をついてる女子高生、たぶん返信をずっと待ってる。でも返事が来ない感じ。もしくは既読すらつかない。がんばれ、知らない誰か」

「スーツのボタンを閉めたり開けたりしてるビジネスマン、今日大事なプレゼンかな。でもたぶん、“どっちが痩せて見えるか”で迷走中。かわいい」

「誰とも喋ってないのに笑ってるおばあちゃん、完全に未来から来た。たぶん、数分後の私の行動を見て笑ってる。こわい」

「きっちり七三分け、黒スーツ、無表情の男性。たぶんFBI。いや、FBIを演じる役者の演技指導に来た本物のFBI」



店内にも目を凝らす。


「黙々とパフェを食べてる老夫婦、通じ合ってるんだろうな……と思ったら、おじいちゃんのパフェにだけ、さりげなくイチゴが2個多かった。愛が見える、無言で」

「さっきからメニューを見てる女子二人、絶対“映えるやつ”を探してる……けど5分前から“パフェ”と“トースト”で迷ってる。カロリーvsカメラ映え、仁義なき戦い」

「奥のカップル、彼女がしゃべってる間ずっと彼氏の右足が揺れてる。あれはたぶん、“早く帰りたい”のサイン……とかだったら切ない」

「ノートPC開いてる男性、画面がずっとExcelのまま。完全に“数式いじってる風のYouTubeタイム”。Ctrl+Tabの切り替えだけプロ級」



勝手な妄想と想像力で、他人の人生を膨らませて遊んでいる。

今日も例によってそんな遊びをしていたら、斜め向かいの席に座っていた学生風の女の子が、なにやらノートにせっせとペンを走らせているのが目に入った。

「レポートか……?いや、あれはスケッチ……?もしかして詩?」

なんてこっそり観察していたら、ふと彼女と目が合った。

すぐに逸らされたけど、妙にニヤリとされた――

気がする。


その瞬間、イヤな予感がした。

――まさか。

いや、でも、あるかもしれない。

もしかして、私も……観察されてる……?


たしかに私は一人で来ているし、さっきから妙に窓の外を見ながらニヤニヤしていた気もする。

それどころか、カップの取っ手を親指と薬指で挟んで持つ癖まで見られていたらどうしよう。

慌てて姿勢を正し、カップを“普通の”持ち方に直す。

「不審者扱いされてないよね?変なキャラにされてないよね?」

内心がぐるぐるしているうちに、さっきの彼女が席を立ち、私の前を通り過ぎた。


そのとき――

彼女のノートが、ぱたんと半分だけ開いた。

ちらっと見えたそこには、確かに私のスケッチらしきイラストと、こんな文字が添えられていた。

「観察者っぽい女性。目がするどい。何者?」


私はその瞬間、悟った。

カフェというのは、観察している人間が、観察されている場所でもあるのだ。

今日もまた、誰かの物語に、私はこっそり登場してしまったかもしれない。


……できれば、カフェラテを飲む姿がちょっとは知的に見えてますように。

切に願う。

いや、お願いだから!!ほんとに!!

拙文、読んで下さりありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
「この人、ぜったい“観察してる人”だな~」って思いながら読んでたら、まさかのどんでん返し! ユーモアと妄想の暴走が心地よくて、読んでる自分までカフェの一員になった気分に。 でも、ふと「自分も誰かに観察…
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