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第9話 『創造者』が見ている

いつもご覧くださって本当にありがとうございます。

 迷域マップが立体化したことで、世界の輪郭がほんの少し明確になった。

 透き通るような網目状の構造が、空間全体に広がっている。

 それは空気の中に浮かぶ、透明な神経回路のようで。まるで、空間そのものが思考しているかのような錯覚すら与えた。


「御崎くん。もしかして、迷宮の『中身』なのかな?」

「ああ。今までは『通れるところ』しか見えてなかったけど、

 これは『世界がどう繋がっているか』を示してる。もしかすると、迷宮の設計図……。いや、『意思』そのものかもしれない」


 言いながらも、自分でもその言葉の重みに驚いていた。

 スキルの成長によって、俺の視界は次第に『物語の外側』へと踏み出している気がしていた。


 そのとき、スマホに静かな通知が現れる。


『探索者コード001:解析領域の上限を突破しました』

『第0階層観測記録ログ:一部復元に成功しました』

『内容は《創造者視点の記述》を含みます。閲覧しますか?』


 創造者。この空間の、最初の設計者。

 その存在が、ついにログという形で姿を見せようとしていた。


「……ユナ、一緒に見てくれるか?」

「もちろん。だってここまで来たの、ふたりでだもん」


 俺たちは端末を並べて、表示されたログを読み始めた。


『観測記録:第0層試作時』

『迷宮とは、《可能性を閉じた空間》である。

 無数の選択肢から限られた道筋だけを抜き出し、収束させていく閉鎖系の構造だ。』

『しかし、もし探索者の迷いが、その空間に《構造》を与えるのだとしたら。

 我々は、迷宮という名の《精神模倣体》を、創り出すことになる。』


『そのとき、探索者は《見る者》ではなく、《創る者》となる。』

『このプロジェクトの本質は、《人間の精神が迷い続ける限り、世界を構築し続けること》だ。』

『名を失った創造者より』


 その記録には、具体的な名前や所属は一切書かれていなかった。

 ただ、彼(あるいは彼女)が『自分を創造者と名乗った』ことだけは、確かだった。


「……つまり、この迷宮って……誰かの心の中で、ずっと育ってたのかも」


 ユナの言葉は、軽いようでいて深かった。


「道を歩いてると思ってたら、実は道そのものが俺たちの思考で形づくられてた。

 だったら、この世界は『俺たちが何を信じるか』で変わっていくってことか……」


 すると、マップの立体表示の中心に、新たな光点が現れた。


『管理フラグ:解放済み』

『創造者の視線が《起点》に戻ります』

『座標変位開始まで、残り4分42秒』


「これ……何が始まるの?」

「たぶん、『世界の再編』」


 マップの輪郭が、徐々に崩れ始める。

 あの透明な神経網が音もなく崩れていき、代わりに赤と黒の線が縫い合わされていく。


 それは再構築ではなかった。『塗り替え』だった。


「まさか……創造者が、この世界を塗り直してる……?」


 ユナが顔を上げたとき、また新たな表示が現れた。


『探索者コード001および002に告ぐ』

『君たちは《再構築される世界》に、適合できるか。それとも、上書きされて消えるか。』

『次のフロアは、《存在の選別》を開始します。』


「選別って……、試験ってこと?」

「もしかすると、存在そのものが『問われる』のかもしれない。

 俺たちがここに『いていい存在か』を、創造者は見極めようとしてる」


 気がつくとマップの中に、まるで目のような形の印が浮かび上がっていた。

 それは誰かがこちらを見ていることを、静かに、しかし確実に示していた。

 

 スマホの通知が再び現れる。


『次の階層への扉、生成完了』

『警告:この先の情報は、観測者以外には表示されません』


「……観測者って、俺たちのことだよな?」

「なら、もう逃げられないね」


 俺たちは顔を見合わせる。笑ってはいなかった。

 でも、恐れてもいなかった。


 自分の存在がこの迷宮に認識され、試されていることが逆に誇らしかった。

 世界が書き換えられるなら、俺たちはその上に足跡を残す。

 たとえ、それが誰にも見えなくても。

 たとえ、それがすぐに消えてしまうとしても。


「ユナ、行こう」

「うん。次の階層に、私たちの道を描きに行こう」

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!

もしよろしければ、ブックマークや★評価をいただけると嬉しいです。今後の励みになります!

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