第3話 ふたりで進むって、思ったよりテンポ合わない
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地図があっても迷う。スキルがあっても、足が合わない。
つまり、『ふたりで探索』ってのは想像よりずっと難しい。
「ちょっと御崎くん、歩くの早いってば!」
「遅いんだよお前が……」
「早いの! 絶対、マップ確認しながらニヤニヤしてたでしょ!」
「ニヤニヤはしてない、たぶん……」
声のボリュームだけは揃ってるのに、足並みが揃わない。
俺たちは、すでに何度目かになる通路の角を曲がり、次のルートを探していた。
ユナの《簡易マップ》と俺の《迷域マップ》を照らし合わせて進んでるんだけど――
「……これさ、私のマップにない道が、そっちにはあるんだよね?」
「ああ。ユニークコードのせいか、俺のほうが『深い』情報まで見えてる気がする」
「むぅ……。やっぱちょっとズルいよ、御崎くんのやつだけ『ユニーク』で」
「スキルガチャで引き強だったってことで」
「ガチャ要素だったの!? うわぁ、私リアルでも爆死してるのか〜……」
そう言いながら、ユナはスマホをくるくると回してため息をついた。
「でもまあいっか。私、マップ埋めるの好きだし。地図が真っ白だったところに色がついていくのって、気持ちよくない?」
「あー……、分かる気がする。踏破率100%とか、地味に目指したくなるタイプだろ」
「そうそう! でもね、ふたりだとちょっと違うの」
「ん?」
「ひとりで全部埋めたときは、『やったー!』って感じなのに、
ふたりで埋めたマップ見ると、なんか『共有財産』って感じがするんだよね」
「共有財産って……、微妙にロマンな言い方だな」
「じゃあ『記念写真』とか、『ふたりの足跡』とか?」
「それは……まあ、悪くないかも」
こんな空間で、こんな会話してること自体が、もうすでに少し変なのかもしれない。
でも――たしかに『ソロ』じゃ見えない景色だった。
ふたりのマップが、少しずつ重なっていく。角を曲がると、通路の端にぽつんと光るオブジェが見えた。
「あ、あれ! アイテムっぽいのあるよ!」
「お、初収穫?」
「よーし、期待しちゃうぞ〜!」
ユナが駆け寄り、そっと手を伸ばして触れる。
が、その瞬間。
『トラップ発動。対象:最もテンションが高かった者』
「えっ」
ばふっ。
天井から謎の布が降ってきて、ユナの顔を包んだ。
「ぶえぇ!? なにこれ!? ヌルヌルなんだけど!!」
「罠……っていうか、精神的に地味にダメージくるタイプだなそれ」
ユナがバタバタしてる間に、俺は画面を確認する。
「……どうやら、罠回避のヒントは『落ち着き』らしいぞ。テンション高いと発動するらしい」
「じゃあ最初から説明してよーっ!」
布を振り払いながら、ユナが涙目で抗議する。
でも不思議と、俺の中にあった『緊張』も、少し和らいでいた。
やっぱ、ふたりで進むのも悪くないかもしれない。
ユナはヌルヌル布の罠から抜け出すと、ふうっと大きくため息をついた。
「……これ、地味に心折れるわ」
「ある意味、攻撃より精神的に効くな。テンション落とすタイプのトラップとは……」
「見た目で侮ってはいけないってことね。ふっふっふ、私、ちょっと学んだわ!」
「自分で言うかそれ」
軽口を叩き合いながら、俺たちは通路に戻った。
マップを確認すると、現在位置の近くにピンのような印がひとつ表示されていた。
俺もユナも、そこに見覚えはない。
「このマーク……、さっきまでなかったよな?」
「うん。でも、アイテム表示とも違うし……。何かが一時的に現れたって感じかな」
謎のマークを囲むように、うっすらと赤い輪郭が浮かび上がる。
『調査地点候補:識別未完了/探索推奨』
「調査地点、だって」
「まさか、ボーナスイベント!? それとも伏線系の場所かな……」
「どっちにしても、放っとくと消えるかもな。行ってみるか」
「うん。てか……こういう謎マークってさ、発見者第1号だとテンション上がるよね!」
ユナが意気込みながらスマホを掲げる。
罠でテンション下げられてたとは思えないほど、元気が戻っていた。
その横顔を見ながら、俺は少し笑う。
「……ほんと、探索に向いてるよな。お前」
「えっ、なに? 今の褒めた? 記録しとくね、今の!」
「やめろ恥ずかしい!」
そんな感じで、ふたりの足取りは少しだけ揃い始めていた。けれどそのとき、俺のスマホが一瞬だけ震える。
マップの端に、ふわりと『何か』が滲んだ。
人の気配のような、ただの誤作動のような曖昧な、揺れる点。
次の階層で、俺たちは『誰か』に会うことになる。そんな予感だけが、胸の奥に残っていた。
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