第19話 選べと言われた道で、君を選べるか
いつもご覧くださって本当にありがとうございます。
白い霧に包まれた階層の扉が、音もなく開いた。
正面の壁に浮かび上がる文字は、誰の声でもないのに、妙に心に響いてくる。
『問い:君は、誰かのために傷つく覚悟があるか?』
『選択肢:YES/NO』
誰かのために傷つく――、それは、他人の重さを自分で抱える覚悟だ。
言葉にすれば綺麗だが、実際は逃げ出したくなるほどの痛みを伴う。
少しだけ、ルルが目を伏せた。
その小さな動作に、迷いがにじんでいた。けれど彼女はすぐに顔を上げ、まっすぐ前を見た。
ユナも腕を組んだまま何も言わず、その問いと向き合っていた。
選択肢は簡単に並んでいるが、選ぶという行為はいつだって、感情と記憶の積み重ねを試すものだ。
俺は、迷いながらも『YES』を選んだ。
瞬間床が淡く光を放ち、道が左右に分かれていく。
一方は柔らかな光が満ち、もう一方には闇が濃く揺れていた。
これは、『YES』と答えた者に与えられる『選択の代償』なのだろう。
優しさは、いつだって試される。回廊を進むと、再び問いが現れた。
『問い:過去に戻れるなら、すべてをやり直すか?』
『選択肢:YES/NO』
ルルの足が止まった。
彼女の記憶はまだ完全ではない。けれど『あの日』の断片が、彼女の中に確かに息づいているのがわかった。
彼女は、何も言わなかった。
けれどその肩の震えが、答えの重みを物語っていた。
ユナは、わずかに視線を外す。
誰よりも明るく振る舞う彼女の中にも、揺るぎのない今があることを、俺は知っている。
誰も答えを語らないまま、俺は『NO』を選んだ。
今の自分を肯定することが、彼女たちの隣に立つための答えだと思ったからだ。
次の瞬間、空間が音を立てて歪む。
『次の選択:もし、大切な人が嘘をついていたら、君は――』
『選択肢:信じる/問い詰める』
どこかで聞いたような言葉だった。
けれどそれはただの偶然ではなく、俺たちに向けられた意図のある問いだった。
問い詰める、という選択肢の隣で、ルルが小さく息を飲んだ。
彼女はやがて、震える声で口を開いた。
「……うん、ついた。ひとつだけ。あの日ログインできなくなるって、分かってた。でも言えなかった」
まるで、記憶の中に閉じ込められていた言葉を、ようやく外に出したようだった。
その声は、誰よりも痛みを知っていた。
俺は、静かに『信じる』を選んだ。
白い空間が光に満ちていく。ルルの手がそっと、俺の手を握った。
感情の波が静かに打ち寄せるように、迷宮が次の階層へと動き始める。
その直前――、ルルが、かすかに微笑んだ。
「ありがとう。私、やっと言えた……」
言葉よりも、そのぬくもりがすべてを伝えていた。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!
もしよろしければ、ブックマークや★評価をいただけると嬉しいです。今後の励みになります!