表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/33

第18話 マップの罠と、歩いた道の裏切り

いつもご覧くださって本当にありがとうございます。

 目の前に広がったのは、まるでボードゲームの盤面のようなフィールドだった。


 天井はなく、空は淡い白に霞んでいる。

 足元の床には四角いグリッドが並び、それぞれに矢印やマークが描かれていた。


「えっ、なにこれ……」


 ユナが目をぱちくりさせる。


『記憶戦闘領域:デジタルマッピングモード』

『各プレイヤーは、1ターンに3マスまで移動可能』

『敵の行動は、1ターン後にマップ上へ『予兆表示』されます』


「うわっ、これまさか……シミュレーション式?」

「うん。俺、昔こういうの大好きだった」


 俺のスマホには、全体マップが表示されている。敵の予兆行動が、薄い赤で数秒遅れて浮かび上がった。


「御崎くん、それどういう意味? これってさ、敵の行動が……」

「追ってくる。こっちが動いたルートを、1ターン遅れで真似してくる感じだ」

「なにそれ、ストーカー!?」


 ルルがびくっと肩をすくめる。そのとき、地面のマス目のひとつが唐突に赤く染まった。


『接触範囲内:敵攻撃予兆マス』

『回避を推奨します』


「来た!」


 俺はユナとルルの腕を引いて、その場から一気に2マス前へ進んだ。

 直後さっきまでいた場所が、光の斬撃に焼かれる。


「うっわ、今の直撃してたらヤバかったね……」

「これ、迷宮が俺たちの動きを学習してる。マッピングしてるのはこっちだけじゃない」

「え、マップ対マップの戦いってこと?」

「そんな高度なことを急に言われても!?」


 ユナが叫び、ルルが苦笑する。でも俺は、興奮していた。

 この感じ、まさにシミュレーションRPGの快感に近い。


「でも、ひとつわかったことがある」

「なに?」

「このマップ、俺の記憶を元に作られてる」

「……!」


 俺が昔、遊んでいたダンジョンゲーム。その中で使われていたルール、敵配置、トラップの位置。


「つまり俺が覚えてるパターンを逆手に取って、今の敵は動いてるってことか」

「めちゃくちゃ性格悪いじゃん、そのダンジョン設計者」

「でも、覚えてるなら勝てるでしょ?」


 ルルが小さく笑った。


「うん、やってやろう。こっちだってマップで生きてきたんだから」


 俺は再びスマホを開いて、マッピングモードを切り替える。

 『敵予測ルート予測表示』をONにし、さらに過去に通ったルートを色分けする。


 すると、さっきまでの回避ルートが『緑』、敵の追従が『赤』で表示された。


「うわ、これ楽しいけど怖い……」


 ユナが背後を警戒しながらマップを覗き込む。


「次、左のL字を進めば回避できるけど、その先に罠がある。マップ上では『青い光』になってる」

「青って、良さそうな色じゃん?」

「たぶん『罠であり、同時にヒント』ってやつ。ルル、どう思う?」

「うーん……私の記憶にはないけど、行ってみるしかないかも!」

「うん、決めた」


 俺たちは進んだ。青いマスを踏むと、画面が切り替わった。


『記憶パネル:過去ログ再生』


『――そのとき、あたしはこう言った。絶対に君のマップに、私の名前を残してみせる――』


「……ルル」

「私、言ってたんだね……。こんなに真っ直ぐに」


 ルルの目が潤んでいた。その直後、敵が赤い円でマップ中央を一斉に囲んだ。


「囲まれた……!?」

「囲い込み型AIか……やばい、こっちのルートがバレてる!」


『出口ルート:切断』

『迷宮は『マップの学習を完了』しました』


「なっ……!」

「じゃあどうすればいいのよ!? もう逃げ道ないじゃない!」


 ユナが叫ぶ。そのとき、ふっと俺のスマホが明るく光った。


『裏ルート発見:再構築マップモード起動』

『あなたが『存在すると思った道』を、システムが具現化します』


「御崎くん……。まさか……」

「記憶の迷宮なら、あった気がする道を信じるしかない」

「何それカッコいい!」

「いや、理屈はよくわかんないけど、もう行くしかないよね!」

「よし、走るぞ! 左斜め前、5マス先に『見たことがある』って記憶を押し込め!!」


 俺たちは駆け出した。存在しなかったはずの道が、光のラインとして浮かび上がる。


「行けるっ……! あと少しで抜けられる!」

「うわあああっ、後ろ来てる来てる来てるぅぅ!!」

「ユナ走って! もげそうでも気合いで耐えて!!」

「誰の胸がもげそうって言ったのよおおおお!!」


 最後のマスを踏んだ瞬間、世界が一瞬光に包まれた。

 気づくと、俺たちは広場のような場所に立っていた。さっきまでのマス目も、グリッドも、すべて消えている。


「……助かった?」

「うん。たぶん、記憶戦闘エリアから脱出できたんだ」


 俺のスマホに『戦闘終了』の表示が浮かんでいた。


「やっぱり御崎くん、マップ強いね!」

「頼りになる男だわ、うん。最後以外は」

「いや、最後も頼りにしてたでしょ!?」

「まあまあ、みんな無事だったからオールオッケー!」


 わちゃわちゃする声が、静かな空間に響く。その遠く、もうひとつの『視線』が光を見ていた。

 カエデ――エリカは、静かに呟く。


「次の階層は『記憶』ではなく、『選択』で決まる――」


 新たな迷宮が、彼らを待っていた。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!

もしよろしければ、ブックマークや★評価をいただけると嬉しいです。今後の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ