第18話 マップの罠と、歩いた道の裏切り
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目の前に広がったのは、まるでボードゲームの盤面のようなフィールドだった。
天井はなく、空は淡い白に霞んでいる。
足元の床には四角いグリッドが並び、それぞれに矢印やマークが描かれていた。
「えっ、なにこれ……」
ユナが目をぱちくりさせる。
『記憶戦闘領域:デジタルマッピングモード』
『各プレイヤーは、1ターンに3マスまで移動可能』
『敵の行動は、1ターン後にマップ上へ『予兆表示』されます』
「うわっ、これまさか……シミュレーション式?」
「うん。俺、昔こういうの大好きだった」
俺のスマホには、全体マップが表示されている。敵の予兆行動が、薄い赤で数秒遅れて浮かび上がった。
「御崎くん、それどういう意味? これってさ、敵の行動が……」
「追ってくる。こっちが動いたルートを、1ターン遅れで真似してくる感じだ」
「なにそれ、ストーカー!?」
ルルがびくっと肩をすくめる。そのとき、地面のマス目のひとつが唐突に赤く染まった。
『接触範囲内:敵攻撃予兆マス』
『回避を推奨します』
「来た!」
俺はユナとルルの腕を引いて、その場から一気に2マス前へ進んだ。
直後さっきまでいた場所が、光の斬撃に焼かれる。
「うっわ、今の直撃してたらヤバかったね……」
「これ、迷宮が俺たちの動きを学習してる。マッピングしてるのはこっちだけじゃない」
「え、マップ対マップの戦いってこと?」
「そんな高度なことを急に言われても!?」
ユナが叫び、ルルが苦笑する。でも俺は、興奮していた。
この感じ、まさにシミュレーションRPGの快感に近い。
「でも、ひとつわかったことがある」
「なに?」
「このマップ、俺の記憶を元に作られてる」
「……!」
俺が昔、遊んでいたダンジョンゲーム。その中で使われていたルール、敵配置、トラップの位置。
「つまり俺が覚えてるパターンを逆手に取って、今の敵は動いてるってことか」
「めちゃくちゃ性格悪いじゃん、そのダンジョン設計者」
「でも、覚えてるなら勝てるでしょ?」
ルルが小さく笑った。
「うん、やってやろう。こっちだってマップで生きてきたんだから」
俺は再びスマホを開いて、マッピングモードを切り替える。
『敵予測ルート予測表示』をONにし、さらに過去に通ったルートを色分けする。
すると、さっきまでの回避ルートが『緑』、敵の追従が『赤』で表示された。
「うわ、これ楽しいけど怖い……」
ユナが背後を警戒しながらマップを覗き込む。
「次、左のL字を進めば回避できるけど、その先に罠がある。マップ上では『青い光』になってる」
「青って、良さそうな色じゃん?」
「たぶん『罠であり、同時にヒント』ってやつ。ルル、どう思う?」
「うーん……私の記憶にはないけど、行ってみるしかないかも!」
「うん、決めた」
俺たちは進んだ。青いマスを踏むと、画面が切り替わった。
『記憶パネル:過去ログ再生』
『――そのとき、あたしはこう言った。絶対に君のマップに、私の名前を残してみせる――』
「……ルル」
「私、言ってたんだね……。こんなに真っ直ぐに」
ルルの目が潤んでいた。その直後、敵が赤い円でマップ中央を一斉に囲んだ。
「囲まれた……!?」
「囲い込み型AIか……やばい、こっちのルートがバレてる!」
『出口ルート:切断』
『迷宮は『マップの学習を完了』しました』
「なっ……!」
「じゃあどうすればいいのよ!? もう逃げ道ないじゃない!」
ユナが叫ぶ。そのとき、ふっと俺のスマホが明るく光った。
『裏ルート発見:再構築マップモード起動』
『あなたが『存在すると思った道』を、システムが具現化します』
「御崎くん……。まさか……」
「記憶の迷宮なら、あった気がする道を信じるしかない」
「何それカッコいい!」
「いや、理屈はよくわかんないけど、もう行くしかないよね!」
「よし、走るぞ! 左斜め前、5マス先に『見たことがある』って記憶を押し込め!!」
俺たちは駆け出した。存在しなかったはずの道が、光のラインとして浮かび上がる。
「行けるっ……! あと少しで抜けられる!」
「うわあああっ、後ろ来てる来てる来てるぅぅ!!」
「ユナ走って! もげそうでも気合いで耐えて!!」
「誰の胸がもげそうって言ったのよおおおお!!」
最後のマスを踏んだ瞬間、世界が一瞬光に包まれた。
気づくと、俺たちは広場のような場所に立っていた。さっきまでのマス目も、グリッドも、すべて消えている。
「……助かった?」
「うん。たぶん、記憶戦闘エリアから脱出できたんだ」
俺のスマホに『戦闘終了』の表示が浮かんでいた。
「やっぱり御崎くん、マップ強いね!」
「頼りになる男だわ、うん。最後以外は」
「いや、最後も頼りにしてたでしょ!?」
「まあまあ、みんな無事だったからオールオッケー!」
わちゃわちゃする声が、静かな空間に響く。その遠く、もうひとつの『視線』が光を見ていた。
カエデ――エリカは、静かに呟く。
「次の階層は『記憶』ではなく、『選択』で決まる――」
新たな迷宮が、彼らを待っていた。
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