第15話 鍵の先に、ぷにぷにの罠
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分岐を進んだ先の通路は、これまでよりも格段に狭かった。
両肩が触れそうな距離で並び、奥へと進む。
「こっち、鍵があるんだよね?」
「うん。確かに『この先』に落ちてるって、思い出したの」
「その思い出しがちょっと怖いんだけど……」
ユナが眉をひそめる。俺も正直、少し不安だった。ルルの記憶が正しいのか、それとも別の何かなのか――。
だが、ルル自身は不思議と自信に満ちていた。
その背中は軽やかに跳ねるように進み、時折振り返ってはこう言う。
「大丈夫だよ、道合ってるから!」
その『確信』が逆に怖い。
ホラーゲームでよくあるパターンだ。自信満々なキャラが最初にやられるんだよな、たいてい。
「……あ、あった!」
ルルが指を差した先、通路の突き当たりの小部屋に、なにかがキラリと光っていた。
それは、金属の鍵のように見える――が。
「なんか……浮いてない?」
「ぷにっとしてない?」
「ぷにっと……?」
近づくと、それは透明なスライムの中に鍵が封じられているようだった。
しかもそのスライム、なぜか手(?)を振っている。
「うっわ、なにこれ! 愛想いい!」
「『こんにちは』とか言いそうな勢いだな」
「それより見て、この口。ずっと笑ってるみたいでさ……。ほら、絶対なにか企んでる顔してる!」
スライムはにこにこと(※そう見える)体を揺らしていた。
『ぷにぷにスライム:友好型/状態:魅了属性あり/接触推奨:×』
「ほらね!? ダメなやつだこれ!」
ユナがスマホの表示を見て叫ぶ。だが、ルルは腕を組んで首をかしげていた。
「でもさ、こいつ倒さなきゃ鍵取れないっぽいよ?」
「それはそうだけど……、その『魅了属性』って何よ」
「触るとほわっとして、頭がぽやぽやするやつ。ユナはヤバいかも」
「は!? なんで私限定!?」
「いや、柔らかそうなものに弱そうっていうか……なんとなく?」
「なにその偏見!」
口を尖らせるユナを横目に、俺はスマホを構えた。
「とにかく情報見よう。戦えるなら、戦って中身の鍵だけ取り出せばいい」
『敵性スライム:擬態型/種別:ぷにぷにミミック/状態:偽友好型/
本体はスライムの『背中』にあり、正面はダミー構造です』
「なんだこの罠生物! 性格悪っ!」
「擬態ってことは、騙す気満々ってことよね」
「背中に回り込んで攻撃するパターンか……なるほど」
しかし、問題はそこからだった。
正面で愛想を振りまいているスライムが、突然にゅるりと体を伸ばしてきた。
「うおっ!?」
「ひぃっ、なんかこっち来てる! こっち見てるぅぅ!」
「いや顔固定だからそれ見てるって言わない!」
「もう無理無理無理! ちょっと蓮くんなんとかしてぇぇ!!」
ユナが後ろに飛び退く。俺はとっさに前に出て剣を構えた。
「ユナ、下がって! ルル、援護!」
「任せて!」
ルルがぐるりと回り込み、スライムの背中へ一気に踏み込む。
「ぷにっとしてるけど、中心が固い! ここだねっ!」
短剣が突き刺さると、スライムの体がびくりと跳ねた。
そのとたん、内部で浮かんでいた鍵が『ぽんっ』と外に飛び出す。
「おわっ!? ユナ、取って!」
「な、なんで私が!?」
「いちばん近い位置にいるでしょ!? はい、キャッチ!」
「うわああああ!? ちょっと、鍵飛んできたぁ!」
ユナは見事にキャッチした……が、その反動でバランスを崩し、
背後のスライムの破片に足を取られてぬるんと滑る。
「きゃあああああっ!?」
派手に転ぶ音。俺とルルは、反射的に目をつぶった。
再び安全エリアに戻った俺たちは、ベンチのような岩に腰掛けて一息ついた。
スライム戦の緊張感が抜けてきたのか、ユナがぼそっと呟いた。
「……ねえ、温泉階層に戻れないかな」
「え?」
「さっきのスライムぷにぷにだったし、足もぬるっとなったし。……ああいう時こそ温泉入りたいでしょ、普通?」
「うーん、確かに。……この先進んだら、たぶんもう戻れないルートに入るよ?」
「うえぇ、今言う? その情報今!?」
わちゃわちゃするふたりの横で、俺は黙々とマップのスクロールと分析に集中していた。
「御崎くん、聞いてるー?」
「ん……あ、え、なに?」
「今、絶対聞いてなかったでしょ」
「いや、ちゃんと地形は見てたから」
「話は?」
「えっと……、温泉がどうとか……」
「雑すぎるぅぅ!!」
3人のやり取りに空気が少し緩んだ。
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