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第14話 その言葉、昔も聞いた気がして

いつもご覧くださって本当にありがとうございます。

 追跡から逃げ切った俺たちは、マップ上に表示された安全地帯まで、慎重に移動を続けた。

 さっきの強敵と再会するのは、もう少しだけ先延ばしにしたい。全員がそう思っていた。


 道中、何度か『赤点』が巡回範囲の端にちらついたが、ルルの迅速な判断と、ユナのマップ補佐で回避できた。

 ようやく辿り着いたのは、ぽっかりと広がった空洞。中には古びたベンチと、湧き水のようなものが流れていた。


「ふぅ……ここ、完全に休憩ゾーンっぽいね」


 ルルが地面に腰を下ろし、ぺたんと座り込む。


「画面にも出てる。『安全エリア:戦闘不可』って」


 ユナがスマホを確認しながら、ようやく息をついた。


「椅子っぽい石がある……けど、座ったら絶対冷たいわよね」


 言いながらも、彼女はそっと腰を下ろしていた。


「わ、やっぱ冷たっ」

「ほら言ったでしょ? 石って冷えるんだよ、地面よりもね」

「だったら最初に教えなさいよぉ……」


 苦笑しながら、俺はベンチの一角に腰を下ろす。背もたれに寄りかかると、ようやく重力を感じた。

 迷宮にいると、常に体が緊張している。リラックスできる時間は、たとえ数分でも貴重だった。


「蓮くん」


 突然、ルルが俺の名を呼んだ。呼び方が「御崎」じゃないことに、少しだけ違和感を覚えた。


「ん?」

「さっきの逃げ方、良かったよ。マップでの判断、すごく的確だった。さすがだね」

「……お、おう。ありがと」


 褒められ慣れてないせいで、変な返事になった。ユナが隣でにやにや笑っている。


「ん~? 照れてる? まさか、ルルに褒められて赤くなってる?」

「ちょっと! からかわないでよ、真剣に言ってるんだから!」


 ルルが頬をぷくっと膨らませる。怒っているというより、拗ねているような表情だった。


「……でもさ、やっぱちょっと気になるんだよね」

「何が?」


 ルルは腕を組み、上を見上げると言った。


「ここのマップ……私が覚えてるのと、ちょっと違う気がして」

「え? ルル、ここ来たことあるの?」

「いや、たぶん……ないと思うんだけど。……でも『見たことがある』って感じ?」


 その言葉に、ユナと俺は同時に首を傾げた。


「どういうこと? 記憶違い?」

「ううん。なんていうか……夢で見た、みたいな。あ、よくあるじゃん? 『デジャヴ』ってやつ」


 ルルの笑顔はいつもの明るさを保っていたが、その瞳の奥にはかすかな迷いが浮かんでいる。


「……変なこと言ってごめんね。気にしないで!」


 そう言って笑った彼女に、俺はなぜか胸の奥がざわつくのを感じた。

 さっき、ルルが俺の名前を「蓮」って呼んだこと。その口調も、昔どこかで聞いたような気がしてならない。


 ユナが湧き水に指をつけて、ぴしゃぴしゃと顔を洗っていた。

 冷たい水が気持ち良さそうで、俺も真似しようかと思ったその時。


「ねぇ……。蓮くんって、昔もこんなふうに迷宮探索してたの?」


 ルルが唐突に聞いてきた。


「ん? あー、昔って言っても今のアカウントでやり出したのは最近だけど。……前は、別の名前でやってた時期はあるかな」

「そっか。……『迷宮は、マッピングが全てだ』って、誰かが言ってた」

「……!」


 そのフレーズ。昔、俺がよく一緒に遊んでいたフレンドが口にしていた、決まり文句だ。

 忘れようにも忘れられない。ずっと前に俺の前から突然いなくなってしまった、大事な相棒。

 そのフレンドがよく言っていた。


『正確に記録することだ。とくに迷宮の中じゃね』

『記憶は消えても、記録は消えないから』


 言葉の端々、イントネーション。ルルのそれは、あまりにもあの頃と似ていた。


「……ルル、その言葉どこで聞いたの?」

「え? あ……うーん、どこだったかな? なんか急に思い出しちゃって。変だよね」


 ルルは笑ってごまかすように立ち上がり、湧き水に手を伸ばした。

 俺は言葉に詰まったまま、ユナの方を見る。

 彼女は黙ってこちらを見ていたが、少しだけ困ったように笑って言った。


「ま、今は深く考えるのやめとこ? せっかく休憩できるんだし」

「……うん、そうだな」


 休憩を終えて再び歩き出すと、すぐ先の地形が大きく分岐している。

 両方とも、細く入り組んでいて視界が悪い。


「どっちだろ……」

「こっちは正解ルートっぽいけど、たぶん敵がいる。もう一方はアイテム部屋とか?」

「ルル、分かるの?」

「うん、なんとなく」


 ルルの顔に、ふわっと笑みが浮かんだ。


「……こっち、確か『鍵』が落ちてる場所だと思う。今度こそ間違いないよ」


 その『確信』がどこから来ているのか――俺たちはまだ、知らなかった。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!

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