表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/33

第1章 第1話 その日、俺のスマホが『迷宮』に繋がった

 朝から画面の調子が悪かったスマホが、ついに壊れたかと思った。

 いつものようにバイト終わりに牛丼をかきこみ、スーパーで半額のアイスを握りしめて帰ってきた俺は、布団に潜り込みアプリを閉じた――はずだった。

 画面が真っ黒になったあと、突然表示されたのは見たこともないアイコン。


 Mapphoria(マッフォリア)――。


 タップした覚えはない。そもそもこんなアプリ、入れた記憶もない。


「なんだこれ……地図アプリか?」


 立体的な画面が浮かび上がり、まるでゲームのダンジョンのようなマップが表示される。そこには、『現在地』らしき光点と、その周囲に広がる灰色の未知のエリア。

 と、その時だった。


『探索モード起動。迷宮へのアクセスを開始しますか?』


「……へ?」


 その言葉を読み終える前に、画面が白く弾けた。

 眩しい光の中で、俺の身体が引っ張られるように――どこかへ落ちていく感覚がした。


 ◆


 視界が戻ったとき、俺は見知らぬ場所に立っていた。

 コンクリート……ではない。不自然に整った灰色の床が、遠くまで続いている。

 まるで、何かの設計図通りに作られたかのような通路だった。


「どこ、だよ……ここ」


 辺りを見回す。壁も天井もある。

 まるでダンジョン――。ゲームでよくある、あの『最初の階層』みたいな雰囲気だ。

 手にしたスマホはまだ光を放っていた。

 さっきのアプリ――Mapphoria(マッフォリア)が起動されたまま、俺の足元のマスを青く塗っている。


『探索開始。現在地:不明エリア・第0層』

『スキル《迷域マップ:ユニークコード001》を認識しました』


 ……スキル?

 変な夢を見てるだけだ。寝る前にゲーム実況見てたし、疲れてるんだきっと。

 そう思って歩き出した瞬間――スマホの画面に『赤い点』が出現した。


『敵影、接近』


「いやいやいやいや、嘘でしょ!?」


 次の瞬間、通路の奥から『それ』は現れた。人の背丈ほどある骨のような腕を持つ――白い、無機質な『何か』。

 そいつは音もなく、まっすぐ俺に向かってきていた。


 ガチャン。ガチャン。ガチャン。


 骨のような腕が無機質な床を叩くたび、足元にビリビリと振動が伝わってくる。

 人間の顔を歪ませたような仮面をつけた、『白い影』。ゆっくり、けれど確実にこちらへと距離を詰めてくる。

 声も出せず足も動かず、俺はただスマホを握りしめていた。


 そのとき。


『スキル発動:《迷域マップ》レベル1』


「――っ!?」


 突然、俺のスマホが発光した。

 マップ上に、通路の奥までびっしりと網目状の地形が描かれていく。

 さっきまで灰色だったエリアが塗り替えられ、赤い点(=敵)の動きすらリアルタイムで表示されていた。


 さらに、画面の右端にこんな表示が浮かぶ。


『現在位置から10メートル先、右方向に『誘導用ギミック』検出』


「……ギミック?」


 とにかく、そこに行けってことか。

 スマホのマップを頼りに、俺は通路を駆け出した。

 幸い敵は遅い。動きはガシャンガシャンとうるさいが、まだ追いつけない。


 走って曲がって、表示された座標にたどり着くと――。床に奇妙な赤い模様が描かれたパネルがあった。


「これか!?」


 思い切って踏み込むと、パネルがぼんやりと光った。

 直後、背後で「ドゴォォン!!」という爆音。振り返ると、敵が通路ごと爆発に飲まれていた。


「……え、マジで。倒した……?」


 息が切れる。膝も震えてる。だけど確かに、俺のスマホが俺を『勝たせた』んだ。

 爆発のあと、しばらく通路には音ひとつなかった。

 敵の白い破片が、床の上にバラバラと散らばっている。鉄とも骨ともつかない異物。

 それはさっきまで『俺を殺しに来ていたもの』だ。


「は、ははっ……。マジかよ……、生きてる」


 実感がなかった。いや、なさすぎて笑えてくる。

 でも――。

 手にしたスマホは、まだ静かに光っていた。

 マップには『今いる位置』が青く表示され、道の先には未探索エリアが広がっている。

 画面には、こんな表示が浮かんでいた。


『ログアウト機能は現在使用できません』

『探索を継続してください』


「……ログアウト、できない?」


 心臓がひとつ大きく跳ねた。


 夢じゃなかった。妄想でもゲームでもない。俺は、本当に『異世界の迷宮』に落とされたんだ。

 そして――、このスマホだけが俺の命綱だ。


 たぶんもう戻れない。いや、簡単には帰れないってことだろう。


「だったら……」


 俺はスマホを握りしめ、画面に映る『未踏のマップ』を見つめた。


「せめて、奥まで踏破してやるよ。迷ったままじゃ気が済まねぇしな」


 と、その時だった。

 遠く――通路の奥から、小さな足音が聞こえた。


 ……誰か、いる?


 その姿はまだ見えない。けれど、確かに『人の気配』がした。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!

もしよろしければ、ブックマークや★評価をいただけると嬉しいです。今後の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ