万事休す
【第二部】エンペス村編
後書きもお楽しみ下さい
話は昨日に遡る
カイルはパージに作戦を伝える
作戦はこうだ
カイルとパージで屋敷の門まで行き、パージが大声で叫び兵士を門に集中させる
そこで兵士達はお金を要求してくるはずなので、大量の銅貨をパージに用意して貰い、それを一枚づつ配り時間を稼ぐ
その隙にボーズとエリサが柵をよじ登り、敷地内に侵入する
ただ一つ問題があり、監禁されてるのが東側と西側の塔、どちらに居るか分からなかった
そこで二人は子爵と交渉して、どちらに居るか聞き出す
あわよくばお金で解決出来たなら、それはそれで最低限の合格ラインであった
もし交渉が決裂した場合、カイルと前もって決めておいたハンドサインで、東西どちらかにエリサの火魔法で火を付ける
そして、準備していたパージの声掛けで集まった男達数十人が火を消すふりをして侵入
監禁されてる人達を解放し、男達に紛れて逃げる算段
男達も戦おうと言うと死ぬかもしれないため、及び腰にもなる
しかし武器も持たずに火消しとなれば、参加希望者は確保出来た
話は現在に戻る
「鍵が掛かってて扉が開かないわ!
ボーズ出番よ!」
「みんな離れて!
僕の力で扉を壊す!
うおぉぉぉぉお
火事場のバカぢからぁぁぁあ」
ボーズの踏ん張った両足が地面にめり込み、鉄の門がひん曲がって開く
そこには数人の捕らえられた人が居た
「エイルムさん、助けに来ました!」
「ボーズ
来ると思っていたが、なかなかの力技だな!」
「この村で農民をしていましたエリサと申します
事情を説明する時間はないので、とりあえずこちらの上着を着て下さい」
全員にボロボロの洋服を着て貰う
「さぁ皆さんこちらへ
みんなの中に紛れて、バケツリレーに加わって貰います」
男達は一列に並び、並べられた荷車から水の入った樽のバケツリレーを開始する
煙の割に火は大したことはなく、早々に火消しとなった
「よし、火が消えたぞー!」
その後、調度品らを外に運び出そうとしていた子爵が庭に出て来た
「皆の者!
火消しを手伝ってくれて礼を言う
あとは兵士でなんとかなるから帰って結構だ」
普通はなんらかの見返りを求めるが、男達はそそくさと屋敷を後にした
入って来た時と出る時の人数が違うとは知られずに
「よいか、兵士ども!
高いお金を払っているんだ!
塔を修復しとけ!」
兵士達は嫌々ながら火事の後片付けをする
「し、子爵様!
火が燃え移らないようにって、村民達が西側の塔をぶっ壊してしまったようで、捕えた者達が全員居ません」
「なに!?
あいつらぁぁぁ」
子爵はみるみる苦虫を噛み潰したよう顔になり、両手の拳を握り締める
「おい、お前ら!
今すぐあいつら全員を反逆罪で捕らえに行くぞ!」
子爵と兵士数名が馬に乗り、男達が去って行った道を辿る
「ボーズ
子爵が追って来るわ」
「思ったよりも気付かれるのが早かったね
このままだと誰かが捕まってしまうかもしれない…
殿を任された身としては、ここは通す訳にはいかない
エリサ、君はここに隠れているんだ
僕ちょっとかっこ付けちゃうね」
建物に立て掛けてあった、建築木材数本を脇に抱え、ボーズが道端で仁王立ちする
「居た!追い付いたぞ!
あいつを捕えろ!
生死は問わない!」
ボーズは木材の一本を右手に持ち、槍のように豪快なフォームでぶん投げる
その瞬間、木材がとんでもないスピードで、子爵の横を走る兵士にぶち当たる
グフォッ
ドスン
兵士は革鎧の上から木材がめり込み、馬から落ちる
「あと四人」
再度ボーズが木材をぶん投げる
シューーーー
グフォッ
ドスン
「あと三人」
ボーズが振りかぶる
「なんなんだあいつは!
兵士ども!俺の前に付け!」
兵士二人が子爵の前に出る
構わずボーズが投げる投げる
ドスン
ドスン
「あと一人」
残ったのは子爵ただ一人
「おのれぇぇぇ
農民風情がぁぁぁ」
ボーズは再度木材を投げようとするが、右手が空を切り、木材がないことに気付く
がそこは全く動揺しない
「来い、子爵!
最後の勝負だ!」
ボーズは両手を広げ、素手で立ち向かう
子爵は馬に乗りながら叫ぶ
「ははは、馬鹿め
私を誰だと思ってる
舐めるなぁぁぁ」
『ウォーターボーーール!!』
子爵の右手に丸い水の塊が出来る
そして、その塊が弾丸のように放たれる
それを両手で受け止めようとするボーズ
(うぉぉぉぉ)
ボーズの両手が一瞬光り、両手を額の前で重ね合わせ受け止めた瞬間
ボーズの両手は丸い水の塊の威力に弾かれ、そのままボーズの額に衝突し、ボーズは後ろに弾け飛ぶ
「ボーズ!」
エリサが建物の影から出て来て叫ぶ
ボーズは倒れたまま動かない
子爵がボーズに近付き、馬から降りる
「ハァハァハァ
思ったより魔力を消費してしまった
こんな農民風情に俺としたことが!
まぁいい、トドメだ、死んで詫びろ!!」
子爵の右手から、再度ウォーターボールが放たれる…
その時、エリサの背後から影が飛び出す
そしてボーズに当たる寸前で、ウォーターボールが真っ二つに切り裂かれる
「ふぅ
なんとか間に合ったか」
そこにはカイルの姿があった
「ボーズ、エリサ、よく時間を稼いでくれた
あとは俺に任せろ」
「くっ、ハァハァハァ
こんの農民風情が、ハァハァハァ
何人増えようとも、ハァハァハァ
おれが負ける訳がない、ハァハァハァ
こんな田舎村で終わる男じゃないんだ!
もう、、、くそォォォ」
子爵は懐から何かを取り出して口に入れる
そして右手をかざす
丸い水の塊が一段と大きくなっていく
(ぐはっ)
子爵の鼻の穴から血が垂れる
右腕がみるみる紫色に変色していく
「死ねぇぇぇぇ」
『ウォーターボォォォォォォォォォル』
先ほどより比べ物にならない、人間を簡単に飲み込む程の大きい水の塊が放たれ、子爵は白目になり顔から地面に倒れ込む
「魔力の使い過ぎで限界を越えたか
とんでもない威力だ」
避けたらボーズに当たってしまう
腹を決めるカイル
深くゆっくり息を吐く
「ふぅぅぅ」
特大の水の塊がカイルに迫る
当たると思われたその時
カイルが上段の構えから剣を振り下ろす
(ヒュンッ・・・)
僅かな時間差で、振った剣の切先から強烈な風の刃が発生する
(ズウォォォン)
水の塊は二つに分かれ、カイルの横を通過していき、後ろの建物に当たり大きな穴を開ける
カイルは片膝をつき、体は剣で支えている
「ハァハァ
なんだか体の力が抜けたようだ…
これはなんだ…
あの強烈な風の刃はなんだったんだ…ハァハァ」
そこに子爵の私兵達が数十人遅れてやってきて、カイル達を囲む
「これはもう…
万事休すか…」
【施設紹介】
エンペス村子爵邸
程よく広い土地に一メートル五十センチほどの高さのレンガの壁で土地を囲っている
門は鉄の柵で特注品
門から中に入ると草木が整えられて生えている
建物の周りには花壇が供えられて、季節ごとに様々な花を楽しめる
建物は一階が赤レンガで二階は木造りとなっていて、左右には本邸と繋がったレンガ造りの円柱状の塔が建っている
ガラス窓が一階二階均等に設置されている
玄関を入ると吹き抜けとなっており、その中央に階段が設置されていて、一階は他に大広間とキッチンがある
二階は左右振り分け式で執務室と客室、リビングと寝室に分かれている