作戦開始
【第二部】エンペス村編
後書きもお楽しみ下さい
「なぁなんか向こうから人が二人歩いてくるぞ」
「おい、ここは子爵様の屋敷だ!
村民が来るところじゃないぞ!」
パージが前に出て、屋敷中に響き渡るほどの大きな声で叫ぶ
「俺は商業ギルドの副支部長のパージ!
そしてこっちは隣村のローズ村から来たカイルだ!
うちの支部長とこいつの父親も巻き込まれちまったようで、解放をお願いしたい!」
「そんなデカい声出したって、簡単にはここは通せねぇ
なぁみんな」
子爵の屋敷の前に、中庭や外周から私兵が所狭しと集まってきた
ニヤニヤしながらこっちを見てくる者
ヤムの葉を噛みながら唾を吐いてる者
なにやら賭け事をして盛り上がってる者
それら約二十人
こちらは対人戦の素人だし、戦おうと思ったら百人くらいは必要だ
屋敷の中にもそれなりに人数がいるだろうし、何人いるか把握出来ない
「まぁこれで子爵のところまで通してくれや」
パージがゆっくり時間を掛けて、銅貨を一枚づつ兵士に渡していく
(ジャリ、ジャリ、ジャリ・・・・)
兵士のイライラが募る
そして、ついに銅貨が入った革袋ごと取り上げる
「ちっ最初からこうすりゃ良かったんだよ
付いて来な!
だがその前に、危ないもん持ってないか確認する」
「好きにするが良い」
その時、カイルがパージに目配せをしたことに兵士は気付かない
二人は屋敷の中に入り、重厚感がある扉のある部屋の前で止まった
男は叫ぶ
「子爵様!
商業ギルドの副支部長ともう一人の…ガキがなにやら話があるそうです!」
「うるっさい!そんな大声出さなくても聞こえる!
これだから兵士は…バカばかりで困る
・・・中に通せ」
ここは子爵の執務室のようだ
重厚な机と椅子
ミケ絨毯と呼ばれる手縫いのパイル柄の絨毯が敷かれている
壁にはこれでもかというほどの、魔物の毛皮などの調度品が飾ってある
子爵は見ての通りの温室育ちのバカ子爵だった
頭に小さい王冠を付け、フリルがいっぱい付いている洋服を着ている
「なんの用だ
お前も捕えても良かったが許してやったんだ」
「ああん!?
コイッ…」
カイルがパージを制止する
「初めまして、隣村から来ましたカイルと申します
まずはお話をさせて頂く機会を頂きありがとうございます」
「副支部長、挨拶はこうやってするもんだぞ
それで話とは?」
「はい、私の父は隣村で商人をしていまして、先日塩と魚を買い付けに来てました
たまたま商業ギルドにいたところ、支部長と一緒に捕まってしまいました」
「それはそれはついてないと言う他ないな、ハッハッハ」
「ええ、ついてないことこの上ございません
そこでご相談なのですが、私の父は商人です
子爵様、私と商売をして頂けませんでしょうか
至ってシンプルです
父の解放においくら必要でしょうか?
ここに用意出来た分だけの白金貨がございます」
「ふむ、商売とはなッ
(こいつ!たかが人の命一つで白金貨とは!?田舎暮もんは通貨の価値が分かってないな)
面白い、それを全部寄越せ!」
「大変恐縮ですが、子爵様
なんとか少しまけて貰えませんでしょうか?」
「・・・お前はバカか?
父親の命がこれで買えるんだぞ!安いものだ!」
「分かりました、では私の父の無事を確認出来ませんか?あと出来れば他の人達も」
「ふん!まぁ良い
そこの窓から外を見てみろ
屋敷から廊下で繋がった西側にあるレンガの倉庫が見えるだろう?そこに監禁している」
「直接会って確認したいのですが…」
「お前何か勘違いをしていないか?俺は全てを拒否出来る、お前は何も拒否出来ないんだよ」
「・・・分かりました子爵様
持って来た白金貨全てを差し上げます…」
「分かれば良いんだ、俺は優しいからな」
子爵はニヤニヤしながら、白金貨が入った革袋を取り上げる
「よし、明日には解放しよう
今日は帰って良し!」
「え?それは話が違うのでは…」
「えーい、うるさい!
おい、そこのボンクラども!
こいつらを摘みだせ!」
兵士が部屋に入ってきて、二人を拘束しようとするが、パージが拒否する
「俺に触るな!
自分で歩いて帰る!」
パージの勢いに押されて、兵士達は何もせず二人の後を付いていく
そして屋敷の玄関ドアを出たところで、カイルの耳元でパージが囁く
「カイル、やっぱりあいつ一発ぶん殴っておけば良かったわ…」
「はい、パージさんおれも同じ意見です
では仕方ないですが力技といきましょう…」
カイルがさりげなく右手をかざし、ハンドサインを送る
程なくすると屋敷の東側の塔から火の手が上がり、誰かが叫ぶ
「か、火事だぁぁ!!」
白々しくカイルとパージも同乗する
「火事だぁ
火事だぞー」
「火を消すんだ!」
するとあらかじめ用意されていたかのように、村の方からボロボロの服を着た数十人の男達が、水の入った樽を大量に積んだ荷車を何台も曳いてくる
「兵士様
火事ですか!?」
「そ、そうだ、しかしやけに早いな!
まぁいい、頼む!火を消してくれ!」
「分かりました
それでは中に入らせて頂きます!
兵士様方は危ないので下がっていて下さい」
数十人の男達は、一斉に子爵の敷地内に入っていく
「火元はどこだぁ
東側の塔だな!」
「良いかみんな!
水をかける班と、これ以上火事が広がらないように西側の塔を壊す班で分けるぞ!」
【人物紹介】
パージ
年齢:五十二歳
生い立ち:生まれも育ちもバルボン
家族構成:父親はバルボンで商人をしている、母はその取引先のご令嬢
弟がいて、弟も稼業を手伝っていたが、たまたま他国から旅行に来ていた女性と知り合い結婚し婿養子になった
現在でも定期的に手紙のやりとりはしている
子宝に恵まれるも仕事熱心が祟り、離婚してしまっている
特技:早寝早起き、船マニア
Episode:弟が稼業を手伝っていたため、商業ギルドに就職する
仕事熱心のためメキメキ頭角を現すも、あまりの仕事熱心さに周りから煙たがられてエンペス村に左遷となった