模擬戦
【第十部】グリッジ帝国編
後書きもお楽しみ下さい
一日一話投稿していきます
「カイル殿
この度は蒸し風呂の開店おめでとうございます
収益の方はどのように扱う予定でしょうか」
「それなんですが、今後我々が撤退した後も運営を継続出来るよう、新しく商会を立ち上げようかと考えています
エンペスから数人商人を連れて来ますので、こちらの現地の方にも商会に入って助けて頂けると助かります」
「分かりました
信用出来る人間を派遣させて貰いましょう」
「ありがとうございます」
「それでカイル殿
今日来て貰った本題ですが…
自治領主から連絡がありました
結論から言うと話は分かって貰えました
なので私と一緒に一度首都に来て欲しいとのことです」
「分かりました
おれとボーズとエリサの三人で行きましょう」
「失礼ですがたった三人で宜しいでしょうか?
随分と私を信用して下さってますね…」
「ダリオ伯爵は信用出来るとおれの直感が言ってます」
「カイルの直感は信用出来るからね
僕も大丈夫だと思う」
「私も行きたい
まだ見ぬパンを…」
「エリサ…」
「てへへ」
「では明日にでも出発しましょう
ここから一週間くらい馬で走れば着きます」
「分かりました」
翌日カイル達はダリオ伯爵と馬車で移動する
途中の村で泊まりながら一週間掛けて首都に着く
「カイル殿
ここが首都のゼッペルグです
人口は一万人程度ですが、ロイロを大きくした感じなのであまり期待しないで下さい」
「いえ
観光しに来た訳ではないので大丈夫です」
「カイル…」
それから大通りを通って大きな屋敷の前に着く
「着きました
ここが自治領主のトルドー公爵の屋敷です」
ダリオは門番に何かを告げる
しばらくすると門が開いて、馬車ごと中に入る
カイル達は馬車から降りると、執事が部屋へと案内をしてくれた
「カイル殿
よく来て頂きました
私が自治領主のトルドーです
そこのダリオとは親戚で昔はよく一緒に遊んだもんです」
「トルドー兄さん…」
「ああ
客人の前ですまない
話はダリオの使者から聞いております」
「カンタラス王国のカイルです
お招き頂きありがとうございます
我々は決して危害を加えるつもりはありません
少しばかりの間、協力して貰いたいだけです」
「それに関しては問題ありません
帝国に恨みのある者は我が自治領にはたくさんいますからな
ただ…
メリルグラウンド海兵団長を捕らえたその実力を疑う者も多くてですね
申し訳ないのですが、我が自治領主団の兵団長と模擬戦をして頂けないかと」
「分かりました
話が円滑に進むのであれば受けましょう」
「ありがとうございます
今からでも大丈夫でしょうか?」
「はい
いつでも構いません」
カイル達は領主団の闘技場に移動する
闘技場に着くと既に兵団長と思われる人物が体を動かしていた
「ええーと
あなた様が…」
「はい
おれがカイルです」
「私は兵団長のバルガスと言います
話で聞いていた通りお若い
ただ若いからと言って手を抜いたりはしませんので」
「ありがとうございます
では早速手合わせしましょう」
「ルールは魔法あり武器なし、目潰し金的はなし、どちらかが戦闘不能になるか参ったというまでです」
「分かりました」
審判が二人を相対させ、始まりの合図を送る
「始め!」
カイルはバルガスに向かって駆ける
バルガスは一瞬驚くがすぐに身構える
(流石にスピードは速いな)
カイルはバルガスまで迫ったところで上へ跳躍し、踵落としを放つ
バルガスは両手を十字にして蹴りを受け止め、弾き返す
「軽いな!」
二人は距離を取るが、次にバルガスが動く
バルガスは正面から突撃し、右拳を振り抜く
カイルは横に躱して左拳を振り抜き腹部に打撃を与えるが、それを物ともせずにバルガスがカイルの左腕を掴む
掴んだ左腕を大きく振り回してカイルを地面に叩き付ける
カイルは身体強化魔法を使いダメージを軽減する
カイルは素早く立ち、再び二人は相対する
「ガードは固いようだな
だがこれはどうだ」
『ウォーターボール』
バルガスは直径一メートルの水の塊を創り出し、カイルに放つ
カイルは余裕をもって横に避ける
『ウォーターバレット』
今度は複数の水の塊を放つ
「これなら避けられまい」
「普通じゃ避けられないですね」
カイルは身体強化魔法を使い、全てすんでのところで避ける
そのままバルガスに向かって行き右拳を振り抜く
(くっ)
『ウォーターウォール』
カイルの打撃は水の壁によって阻まれる
しかしカイルは構わずパンチのラッシュをかける
(うぉぉぉぉぉ)
(か、壁にヒビが…)
ピキピキピキッ
パリーン
カイルの拳がバルガスに当たる
頬に肩に腹に
バルガスはふらふらになりながらギリギリで立つ
(なんて攻撃だ
しかもまだきっと本気を出していない
俺の負けか…)
「参った…」
「勝者カイル!」
(((ワァァ)))
トルドーが話し掛ける
「カイル殿
これで皆んな納得してくれます
ありがとうございます
しかしあのバルガスを負かすとは…」
「いえ
バルガスさんもまだ奥の手はありそうでしたので、本気を出されたらどうなったか分かりませんよ」
「そうなんですね
武人でない私には分からないものがあるのでしょうね」
「はい
ところで少し汗をかいてしまいました
蒸し風呂はこの首都にありますか?」
「蒸し風呂はございません
帝国本国には特殊な水を使った湯浴みが貴族のみ使用が許されております」
「そうですか
ロイロでも蒸し風呂を造ったのですが、好評のようです
良ければこちらにもお造りしましょうか」
「ほう
それは試してみたいものです」
「それでは我々の体制が整い次第用意させて貰います」
「楽しみにしております」
【人物紹介】
トルドー
年齢:四十三歳
生い立ち:生まれも育ちもゼッペルグ
家族構成:父親はリンゼン自治領を治めた公爵
三人兄弟の長男で、末の弟は右腕として内政を任せている、真ん中の弟は帝国侵略時に戦死
妻と三人の息子が居る
特技:交渉、ワイン通
episode:約二十年前帝国から侵略を受け、三兄弟で戦に参加
真ん中の弟は戦死し、以後帝国に憎しみを抱くが領民のために飼い犬を演じている
ゼッペルグは立地的に色んな国のワインが入ってくるため、ワインに関しては舌が肥えている




