ロイロ
【第十部】グリッジ帝国編
後書きもお楽しみ下さい
一日一話投稿していきます
その後アステアは悪戦苦闘しながらも、夕方には積み込みを完了させ、カイル兵団はたくさんの街民に見送られながら出航する
「アステアさん
積み込みありがとうございます」
「パージさんが居ないから大変だった
あの人優秀過ぎるんだよ」
「確かにパージさん超優秀説ありますね」
「それでなぜ食料品以外は衣服と金と鉄の塊なんだ」
「衣服と鉄は我が国の技術を見せるためです
そして金は向こうに行った時に賄賂に使います
おれ達の数だと武力で広域支配は正直難しいです
だから領主を金で買収し、一時的に支配地域を大きく見せます
あとで帝国に返還する時には、領主は脅されて仕方なくとか何とか言えば大した罪には問われないと思いますし」
「カイル…
君は本当に人生一回目なの?」
「ははは、一回目ですよ
まぁこの感じは父さんに感謝ですね」
それから途中、航行不可のため陸に停泊していた団艦から捕虜を拾った
そして捕虜を乗せた船約二十隻とカイル兵団の団艦二十隻はロイロに着いた
一方その頃のデールでは
「ええーい!
北と南からの侵攻の連絡はまだ来ぬか!」
「はっ
まだその連絡は入っておりません」
「ラモウ
お主まさかこの私を騙したのではないだろうな!」
「ええ
ユリウス殿
本国からしかと確約を得ています
もうじき連絡が来るかと」
「そんな悠長なことを言える状況ではない!
街は囲まれていて、いずれ食料が尽きてしまう
我らの役目は王都に魔導士団のジルかコビーを釘付けにすることだ
あと一カ月だ
あと一カ月で食料が尽きる
それで何も動かないようなら貴様の首を取り、私は脅されていたと言って降伏する」
(本当にコイツは小物だな)
「分かりました」
話はカイル達に戻る
捕虜を乗せた船を先に帰港させたことで、カイル達も簡単に入港出来た
帝国側もまさか天下の帝国が侵攻されるとは考えることはなく、カイル達の上陸も易々許した
「よし
全員降りたね
とりあえず捕虜は解放
おれ達は領主の下へ向かうぞ」
カイル達は迅速に領主邸まで移動する
道中兵士は居たが、何が起きているのか分からずカイル達は素通り出来た
そして領主邸に着くと見張りの兵士を制圧し、現在領主と相対している
「私がこの街を治めている伯爵のダリオです
メリルグラウンド帝国第三連隊海兵団長は負けたのですね…
それであなた方はカンタラス王国から攻め入って来たと」
「はい
私はカンタラス王国で辺境伯をしているカイルと言います
緊急時につき、この街を支配下に置かせて貰います」
「ほう、お若いのに
この街をですか
カイル殿の兵数では帝国が本気を出して攻めて来たらすぐに負けてしまいますよ?」
「そうならないように準備はします」
「まぁメリルグラウンド帝国第三連隊海兵団長を倒したくらいですから、腕に覚えはあるのでしょうね」
「皆さんに危害を加えるつもりはありません
現在帝国が我々の国に攻め入ろうとしているため、こちらの領土を和平交渉の切り札にさせて頂きます
なので、その時まではこちらに滞在させて貰います」
「帝国に楯突くと?」
「何もせず負ける気はありません」
「気に入りました」
「え?」
「気に入りましたと言ったのですよ
ここ十年ほどは帝国に攻め入ろうなんて国はありませんでしたからね
大人しく支配下になりましょう」
「カイル、こんなすんなりいくなんて絶対何かあるよ」
「信用出来ないのも無理ありませんね
では帝国の実情を説明しましょうか」
ダリオは帝国の実情を説明する
テセウス皇帝が前皇帝からその地位を引継ぎ二十年が経つ
テセウス皇帝は当時国内が不況に陥っていたことから、国民のガス抜きとして兵団拡大を唱えた
帝国の周辺には大小の国が存在していたが、帝国内の余剰国民を減らすため、手始めに隣接する小国を多数の犠牲を出しながら征服した
その滅ぼした国から金や人を搾取すると帝国内の景気が持ち直す
そしてそこから帝国国民や征服国の国民を大勢犠牲にし、破竹の勢いで帝国周辺の国を全て征服し統一した
その時に征服されたのが、このロイロを含むブリタニア連邦だ
帝国は国の規模が大きくなると経済効果が大きくなり、産業への投資や兵団備が拡充した
テセウス皇帝はここから第一次黎明期と位置付け、現在の戦略を活用した
戦前降伏した国にはそれなりの税を納めるだけで自治を認め、敵対した国へは征服国国民の犠牲を厭わず戦わせる
帝国に大した魔法使いが居ないのも、降伏した国からは奪い取らず、敵対国に居れば殺してしまうためだ
この戦略により、当初は戦前降伏する国より帝国の方が領土は大きく、兵団や経済は拡大の一途を辿っていた
しかし戦うことを避ける国が多くなり、戦前降伏する国が大幅に増え、ついには降伏した国の領土を足した方が圧倒的に大きくなってしまった
そのうち降伏した国同士が協定を結び、帝国が重課税などに方針を変えられないよう、帝国幹部に金をばら撒き対抗するようになった
そうして現在の帝国の役目は、新たな国を攻めるだけの担当になり下がってきており、テセウス皇帝の影響力は落ちている
自治領はそれなりの税を納めているだけだが、帝国からの恩恵もなく独立の機運が高まっているとのことだった
「ということなのです
まさに渡りに船というやつですよ」
「それでしたら自治領主に話を付けることも可能でしょうか」
「可能です
幸いにもここは元々連邦国の一部でしたから、領地は大した大きさはありません
自治領民は十万人程度で
首都周辺に一万人程度居て、あとは千〜三千人の街がいくつかある感じです
この伯爵領はロイロという貿易拠点なのもあって、首都を治める公爵領に次ぐ大きい街です」
「分かりました
ただ我々に全面協力したとなれば、報復も受けてしまうかもしれません」
「それではこうしましょう
私は幽閉され、カイル暫定領とし
この街の幹部と自治領の諸侯には金をばら撒いて、黙っておいて貰うとしましょう」
「そんなことまで…
それでは船で金を持って来てますので、資金面では協力させて頂きます」
「では私は各方面に調整を付けなければなりません
カイル殿はこの自治領やロイロの事を見て聞いてみて下さい」
「恩に切ります」
【人物紹介】
ダリオ
年齢:三十六歳
生い立ち:生まれも育ちもロイロ
家族構成:両親はトルドー公爵の親戚でロイロで商店を営んでいる
一人っ子
妻と息子が居る
特技:計算、交渉
episode:小さい頃から実家の商店を手伝っていたため、計算やお客との駆け引きが上手くなった
十代で商店を立ち上げ、二十代では十数店舗を運営する新進気鋭の子爵となる
公爵の親戚ということや商業ギルドの後押しもあり、三十台の時に伯爵にしょう爵し現在に至る




