海洋戦決着
【第十部】グリッジ帝国編
後書きもお楽しみ下さい
一日一話投稿していきます
メリルグラウンドが気を失い、その場に顔から倒れる
そして霧が晴れると小船がギャラクシー船から離れていくのが見えた
カイルは小船を追うか一瞬悩んだが、救護を優先させる
ボーズは順々にヒールをかける
カイルは船員をボーズの近くに運ぶ
時間にして一分も掛からないうちに全員にヒールを掛け、回復させることに成功した
「危なかった…
人間の闇魔法なんて初めて見た」
「光魔法を使える僕達が居たのが幸運だったね」
「二人共ありがとう、助かったわ」
「俺も何も出来ずすまなかった」
カイル達は乗組員からもお礼を言われる
そしてメリルグラウンドはというと、まだ気を失って倒れている
大量に出血しており瀕死なのが分かる
「ボーズ
こいつを助けてやってくれ」
「はいよ
カイルならそう言うと思った
スパッと斬ってくれたからヒールでくっ付くと思うよ」
『ヒール』
メリルグラウンドの腕がくっ付き、出血が止まる
「僕のヒールじゃ血を創り出すことは出来ない
だからしばらく意識は戻らないと思う」
「分かった
誰かこいつを船の中の医務室に
一応手を縛って、見張りを付けておいて下さい
意識が戻ったら教えて下さい」
「こいつの服
だいぶ身分が高いとみる
もしかしたら指揮官クラスか…」
「おそらく
とりあえず陸に停泊している団艦を制圧しましょう」
カイル達が帆を畳んだギャラクシー船で近付くと、団艦に白旗が掲げてあった
「カイル
どうやらあいつは敵の指揮官だったようだね」
「はい
兵と船を無駄に傷付けずに済んで良かったです」
「しかし油断は禁物だ
まだ魔法使いは居るだろうから、ここは全員で行こう」
カイル達はギャラクシー船から小船を出して上陸する
すると向こうから数人白旗を手に掲げながらこちらに近付いてくる
アステアが叫ぶ
「待て!
それ以上近付くな!
貴様らの指揮官らしき男は捕らえている
降伏ということで良いか!」
白旗を掲げた人の中から老夫が出てくる
「降伏だ
そちらの勝ちで良い
して戦死したと思っていたメリルグラウンド様が生きていたとなると、ぜひ会わせて貰いたい」
「悪いがまだ会わせる訳にはいかない
まずは全員姿を表して、武器を捨てて降伏するんだ」
「分かった
そちらの言う通りにしよう
皆を呼んでくるのだ」
一人の男が後方へ走って行く
そして数分後に続々と兵士が姿を表して、両膝を付き両手を頭の後ろに回す
アステアは乗って来た小船をギャラクシー船に出した
「カイル
うちの海兵団を呼んだ
我々が兵士達を見張ってる間に、船の中を調べて貰う」
「任せます」
しばらくすると、海兵団が上陸し船の中を全て調べて回り、武器と食料を全て回収する
そして老夫だけギャラクシー船に連れて行き、甲板でメリルグラウンドと引き合わせた
「カイル
それでこれからどうする」
「彼らを一度エンペスに連れて行きます
それからこれらの事を王陛下に報告して、ユリウス公がまだ討伐出来てないようなら戦いに加わります」
「分かった
そうしよう」
航行可能な約二十隻に捕虜を満載に乗せ、エンペスに向け出発する
それを沖から監視しながらギャラクシー船も同行する
数日後にはエンペスに辿り着く
帰還すると早速兵士が情報をくれる
タルト村は騎士団の奇襲で制圧に成功
その後騎士団と兵団の計百人で防衛線を形成
現在までにウィンブルから兵士が向かったという話はなく、タルト村は警戒体制を継続中とのことだ
マルス公爵兵はデールに到着し、そびえ立つ城壁を取り囲んで睨み合いが続いている
どうやら籠城を決め込んで、何かを待っているようだとのこと
また北側の帝国の動きがあり、征服した国の国民をカンタラス王国との前線に連れて来ているらしく、コビーが北方のビクゼン公と合流し警戒している
そしてカイルは早速手紙を各方面に出した
メリルグラウンドはセダに頼んで王都に移送した
「カイル
タルト村は大丈夫そうだね」
「ああ
アンリさん達とタイラーテイラーが居れば大丈夫だろう」
「じゃあ僕らはマルス公爵に合流するの?」
「いや
ユリウス公は籠城して何かを待っていると兵士から報告があった
そして北側も兵士が集まってるとすると、おそらく待っているのはこの南側からの上陸だ
もしそうなっていたらマルス公爵は自領へ帰らざるを得ない
ユリウス公への対応は王直轄兵となり、戦力を分散出来る
これが狙いだと思う」
「あの報告だけでよくそこまで読んだね
ほんとカイルは段々エイルムさんに似てきたよ、ははは」
「ただこれで南側からの侵攻に失敗したところで、おそらく帝国は北側からの侵攻をやめないだろう
そうなると双方に多大な損害が出る
あの帝国の戦い方だと最終的に人量物量に押されてうちが負ける可能性もある」
「私も聞いたことはあるわ
帝国は征服した国の人間を前線で戦わせるって、それでどれだけ犠牲が出ても人の数で押し切るって」
「そうなんだ
そこでだ
おれ達は川を上って今から帝国領の街ロイロに逆侵攻をする
ギャラクシー船は川上りに使えないから置いていく
それでそこの土地を支配して和平交渉の材料にするんだ
あの辺は帝国の古参支配地域だから、無碍にしようもんなら他の支配地域にも影響を与える
多少なりとも和平交渉に役立つはずだ」
「分かった
そうなると編成はどうする」
「エンペスの防衛もあります
なので、兵士団百人と海兵団百人とおれ達だけで行きます
ロイロの団艦と兵士はほとんどこのエンペスに居るそうなので足りるかと
あと船の数は二十隻程度でしょうか
それから純粋な帝国兵以外の捕虜も連れて行って解放します
ほとんど死人も出てないようなので、恨まれることはないと思ってます」
「それでいつ出発する?」
「皆さんには申し訳ないのですが、北側の侵攻が始まってしまったらすぐに止められません
なので今日食料や貿易品を積み込んで出航します」
「時間はまだ昼前だ
そうとなったらこうしちゃいられない
今日中に出航出来るよう努力する」
【人物紹介】
ビクゼン
年齢:七十五歳
生い立ち:生まれも育ちもリベルテ
家族構成:父親は元男爵、母親は田舎村の娘
兄が二人居たが、戦で戦死
妻のモミイは冒険者ギルドの受付嬢
子供は男の子三人、全員公爵領の兵士団幹部
特技:身体強化魔法、酒豪、元冒険者ランクA
Episode:北方の田舎の男爵家の五男として生まれ、類まれな身体強化魔法を使い冒険者として名を馳せる
戦では常に先頭を切って戦う姿勢や酒豪伝説が数々あり、カンタラス王国でも絶大な人気を誇る
約三十年前のハルク大戦で公爵が討ち取られるも、ビクゼンの活躍により戦いに勝利し、国民の人気も後押しし公爵の地位を得た




