おやじの宿とパージ
【第二部】エンペス村編
後書きもお楽しみ下さい
村の中心から歩いて行くと、段々と人はまばらになっていく
十分ほど歩くと村外れに着いた
ピカピカではないが、手入れの行き届いた年季の入った木造の外観
名前はおやじの宿
三人はとりあえず中に入る
「すいませーん」
カウンターの奥の部屋から頑固おやじが…ではなくサラサラのロングヘア、スタイルはセダに負けず劣らずのとびっきりの美人が出て来た
「はーい
お待たせしました♪
お泊まりですか?」
「あ、はい!、三人泊まれますか!?」
「それなら空いてますよ♪実はここんところ商人の行き来が減って商売上がったりでね…
もう潰れちゃうしかないかなって、なんてねっ♪
料金は素泊まり八銅貨で、朝夕の食事付きなら十二銅貨よ♪」
「それじゃとりあえず一泊食事付きでお願いします」
「はーい♪ありがとうございます♪
鍵はこちらで二階のお部屋になります♪」
色んなものを我慢して、カイル達は再び外へ出る
「とりあえず宿は確保出来たわね」
「ああ、ひとまずその接収されたっていう商業ギルドに行ってみるか」
エリサの案内で、来た道を折り返し進んでいく
メイン通りの一角に年季の入った、一際大きなレンガ造りの建物を見付ける
「あれが商業ギルドの支部よ」
「やっぱり接収されてるな」
「見張りもいるようだね」
「さて、どうするか…」
(ブツブツブツ)
「くそっ」
(ブツブツブツ)
「だから言わんこっちゃない」
何やら独り言を言っているフードを被った男が、支部の近くに立っている
「あの人なんか見た事ある…
えーっと、たしか……
あ、そうだ
商業ギルドの副支部長だ!」
「よし、おれに任せろ!」
カイルはそっとフードを被った男に近付く
「あのー
もしかして商業ギルドの副支部長の方でいらっしゃいますか?」
「なんだお前達は?
見た事ない顔だ
いや、そこの少女は確か…
村の外れで農作物を育ててたな」
「はい、この子はこの村の出身でございます
そしておれ達二人は、隣のローズ村から来ました
実は塩を買い付けに来たのですが、噂で商業ギルドが接収されたとかで、様子を見に来たんです」
「・・・それは悪い時に来たな
商業ギルドはあのバカ子爵によって接収されちまった
俺は止めたんだがな、支部長が陳情を渡しに、くそバカ子爵のところに行ったんだ
んで案の定反逆の罪でギルドは接収され、今に至るのさ
初めっから仲間集めてあんゴミくそバカ子爵なんて、力でやっちまった方が良かったんだ
支部が押さえられて支部長まで連れてかれちまってよ、みんな金玉が縮み上がっちまったんだ」
「さようでございますか…
実は先程は嘘を付いておりました、大変申し訳ございません、あなたが信用出来るお方か確かめておりました
実は…」
カイル達はエンペス村から来たエリサ達のことエイルムのことを話した
「まぁそんなこったろうと思ったさ
塩を買い付けに来たってのに、荷馬車もねぇし、こんなガキだけで来るとも思えねぇ
まぁそのエリサって言ったか、そいつが居なけりゃ俺も本当のことは話さなかったけどな」
「試されてたのはおれたちの方って訳か…」
さすが商業ギルドの副支部長といったところか
「改めて自己紹介する、エンペス村商業ギルドの副支部長をやってるパージだ、よろしくな
ところでお前さんらはこれからどうするつもりだ?
まさか正面から入って親父を返してくださいって言わないだろうな」
「はい、その事ですが、お力をお借りしたく…」
「なんだとりあえず言ってみろ」
カイルは考えていた作戦をパージに伝えた
「ほぅ
最近の若ぇのにしたらなかなか気概があるじゃねぇか
どうだ、この問題が無事解決したら俺のところで働かねぇか?
高い給金は出せねぇが、ある程度の生活は出来るようになるぞ」
「パージさん、ありがとうございます
今のところ村から出る気はないのです
この問題が解決したら是非うちの村に遊びに来てください!」
「そうだな、まずは問題を解決しないとな」
「はい、今日のところは遅いですし、明日夕方ここに集合ということで」
「ああ、分かった
明日に向けて俺も準備しとかなきゃな」
パージと別れて、おやじの宿まで帰ってきた三人
「あら、お帰りなさい♪
もうお食事は出来てるけど食べますかぁ?」
「それじゃこのまま食堂で食事を頂きます」
食堂はお店の一角にあり、大人十人がちょうど入れるくらいだ
使い古された木の丸テーブルが三つほどあり、そのテーブルを囲うように椅子が置いてある
すでに丸テーブルは一つ埋まっており、空いている一つの席に付いた
「お腹減ったなぁ」
「ボーズ、どこへ行ってもボーズはボーズで安心したぜ、フッ」
「私もこんな時だけどお腹が空いたわ」
「まぁ実はおれもだけどな
この良い匂いの正体を早く知りたいんだ」
さっきの受付の美人さんが、料理を両手と両手首にお皿を上手く乗せ、一気に四皿も持って来る
「はい、お待ちどうさま♪
おやじの宿特製、お魚のスープでーす♪
白身魚とホタテとエビを煮込んで、塩で味付けしてます♪
最後はスープの中に大麦を入れて食べて下さいね♪」
三人の前にスープと生野菜が置かれる
「これは、、、
なんて良い香りかしら」
「これは絶対美味いやつだ」
「ふ、二人とも早く食べようよ!」
(ふーふー
ズルル〜
ハフッハフッ)
「「「美味い」」」
三人はお腹いっぱいになり、軽く打ち合わせをしていると
「あら
完食してくれたんですね♪
お口に合って良かった♪」
「はい!ほんっっっとに美味しかったです!
またいつか絶対食べに来ますね!」
「そんな死ぬ前の食事じゃないんだから、また気軽に来てちょうだい♪」
それから二階に上がり、三人はそれぞれの部屋に入る
(コンコンッ)
「はいよー
どうしたボーズ」
「いや、ちょっとね
一人で宿で寝るなんて初めてだからちょっとね…」
「まぁ入れよ」
「僕さ、この問題が終わったらエリサに告白しようと思うんだ」
「そうか…ボーズの気持ちは当然知ってたさ」
「だよね?
こんな気持ち初めてだよ
出逢って間もないけど、エリサとずっと一緒に居たいと思ったんだ」
「ボーズ、おれも恋愛経験はほとんどないが、ちょっと重いな・・・」
「あはは、そう自分でも自覚してる
でも好きなんだよエリサのことが」
「まぁおれも全力で応援するが、フラれたらまた一緒に汚物の回収をしようや」
「ありがとうカイル」
「おいおい、ちょっとこの後死ぬ雰囲気出てるぞ
勘弁してくれよな」
「死なないさ、なんたって僕たちにはカイルが付いてるんだからさ」
「なかなか信頼されているようで」
「じゃあまた明日ね」
「ああ、また明日な」
翌朝食堂で朝食を食べる
パンとチーズだ
パンは村が管理している共同窯で朝から焼いて来たらしく、熱々で柔らかくて美味い
それからあの美人さんは、ケイさんという名前だということが分かった
その後は部屋で各々の時間を過ごし、夕暮れ時になり、宿の前に集まる
「三人揃ったな
さて、行こうか」
時間前に支部近くの待ち合わせ場所に着いたが、そこにはもうパージが待っていた
「おう
お前ら早いな!」
「いえ、それはこっちのセリフです」
「ついつい仕事のくせで、時間前行動が染み付いちまってんだ
ところでこっちの用意はバッチリだ」
「はい、ありがとうございます!
それでは、、、行きましょう!!」
【建物紹介】
おやじの宿
木造造りで築二十二年
二階建てで部屋数は十二部屋
入り口入ると受付があり、受付横に二階への階段、左側は食堂、右側は一階の六部屋がある
各部屋は四畳ほどで窓が一つ、木製のベットとその上に敷布団(ビッグシーパーの毛皮から作った生地に中に藁を詰めている)が敷いてあるのみ
トイレは共同でお風呂はない




