いざエンペス村へ
【第二部】エンペス村編
後書きもお楽しみ下さい
お店の中に入ると、セダと何やら話し込んでいる様子
真剣な眼差しになるセダ
そしてそのまま男は、外に繋いであった馬に乗り、急いでどこかへ行ってしまった
「ただいまー
母さんさっきの人どうしたの?
あんなに慌ててさ」
「カイル、話があるわ
そこのテーブルに座ってちょうだい
でもその前に…
その子はお友達?」
「ああ
この子はエンペス村から来た一団の一人でエリサっていうんだ」
「そう…
エンペス村からね…」
「どうしたんだ母さん?」
「えーと、父さんの事で大変なことになったの
そのー、エンペス村のことで…」
「エリサは大丈夫だよ、僕たちに魔法を教えてくれるとっても良い子なんだ!」
「お母様…
信用して貰えるか分からないけど、エンペス村には友達もたくさん残して来ちゃったし…
ぜひ話を聞きたいわ」
それからセダは、事の成り行きをカイル達に話した
「なんだって!
父さんが!?」
「カイル!すぐ助けに行こう!僕も手伝うよ」
「それでしたら私も何の役に立てるか分からないけど、私達を受け入れてくれた恩もあるし、一緒に行きたい!」
「あなた達…
その申し出は嬉しいけど、父さんが監禁されてるのはエンペス村の子爵の家よ
私兵もいるだろうし、とっても危険なの!」
「おれたちなら大丈夫
理由なんてないけど、なんとかなる気がするんだ
母さん、おれ達で父さんを救い出したいんだ」
セダはしばらく推し黙る…
「分かったわ、じゃあこうしましょう
武器は持っていかない、お金は用意するから、それで解決出来るならそうする
話が決裂しても無謀なことはせず、一旦こちらの村に帰って来る」
「分かった
無理はしないし、おれも商人の子だ
何とか話をまとめてみせるさ」
「ボーズ、エリサちゃん
ほんとに危険なことをお願いしちゃうけど、絶対に無理はしないでね
私は伯爵の居る街に行って、こんな悪事を働いたことを報告するわ」
そうと決まったら話は早い
セダは村長のところに行き、事情を説明する
「なんじゃと!?
とんでもない子爵じゃ!
セダ、お金は村で用意しよう
あとお店も誰か信用できる者に店番をさせる
それから馬もこちらで用意をするから、すぐに出発すると良いでな」
カイル達三人はエンペス村へ
セダは伯爵の街に向かった
(ドドドッドドドッドドドッドドドッ)
馬に乗りながら三人は話す
「そういえばカイルは、エンペス村まで行ったことあるんだっけか?」
「ああ、だけど数回父さんと来た程度だ」
「大丈夫!道なら私が分かるわ」
「よし、エンペス村まで急げば半日
昼過ぎには着く予定だ
今のうちに干し肉を無理やりお腹の中に入れとくんだ!」
それから半日後
(ヒヒーンッ ブルルッ)
小高い丘の上から三人は村を見下ろす
そこはエンペス村が一望でき、その先に青い海が永遠と続いている
「さぁ着いたぞ」
「わぁぁ
ここがエンペス村かぁ
なんて良い眺めだ…」
「出来ればこんな形で来たくなかったけどね
ボーズは村から出るのは初めてだろ?」
エンペス村は見ての通り海に面した村で、海を背に木造りの建物が並んでいて、その家々を扇状に防護柵で囲っている
村民は三百人程度でうちの村の三倍だ
村民の八割が漁業関係の仕事をしていて、残り二割は半農半職で家畜や作物を育てている
特に塩については伯爵様の街へも販売しており、魚介類に関しては近隣の村々とも取引している
「エリサ、子爵の家はどこだ?」
「村の中心にあるんだけど…
あそこに見えるでしょ?あの塔が両側に二つあって、一際大きいレンガ造りの建物の
でもいきなり行くよりは、情報収集した方が良いと思うわ」
「そうだな、とりあえず村の雰囲気とか何か噂話とかで、父さんの情報がないか確認しておこう」
村の入り口に来ると門番に止められる
「何の用だ?」
「えーっと…
おら達森の方で暮らすてて、そろそろ塩が欲しいと思って買いに来たんだず」
「そうか、ただ今は色々あって塩の価格が高騰しているぞ!」
「ええ!?
そうでやんずか…
おら達お金は持ってねぇでやんず
このバックに入ってる干し肉と交換出来ればええんでば…」
「ゴホンッ
まぁお金がないんじゃ仕方ないな
本来通行税が必要だ…ただお前らが持って来た干し肉の一部で許してやる
ほんとはお金が必要なんだが感謝しろよ?」
「へい
ありがとうでっさ」
入り口を通過する三人
「前は通行税なんてなかったのに…
干し肉を入れた袋一つ取られてしまったわ」
「仕方ない、人頭税も取られるようになったみたいだし、あの兵士も必死なんだろうな
まぁ、まずは市場に行って聞き込みだ」
メイン通りに来ると、出店がたくさん並んでおり、ローズ村に比べると人通りも多く、活気に満ちている
あちこちから呼び込みの声が聞こえる
「らっしゃいらっしゃいー
お兄さんがた
魚はどうだいー?
今日獲れたばかりだよー」
「やっぱり値段が上がってるね
五割増しってところか
魚の相場はだいたい頭に入っている
やはり多重課税されているようだな
課税率は一般的に一割から三割が多いと父さんから聞いたことがある」
「さらに人頭税で徴収されるのは厳しいね
これじゃあ交易は減るだろうし、逆に税の徴収が下がりそうだけど…」
「カイル、あそこの細道を行った先のアパートに、私の友達が居るから行ってみましょ」
三人はアパート前に着く
「テラ!エリサだよ!」
「エリサ?エリサは確か生活出来ないからって、家族共々出て行ってしまったと思うけど…
エリサ!本物なの!?
あれからどこ行ったのか心配してたんだから!」
「実はさ、隣村のローズ村に行って、一時的に保護して貰ってるのよ」
エリサはテラからこの村の実情を教えて貰った
塩と魚の税は五割とのこと
その他、人頭税は月に一人銀貨五枚
子供も関係なく一人五枚だそう
私腹を肥やした子爵は、毎晩食えや呑めやの大騒ぎをしており、私兵を使って好き放題しているらしい
困った商業ギルドの支部長は子爵に陳情を送ったが、逆に反逆と見なされ、商業ギルドの支部が接収されてしまい、その時建物の中に居た人全員捕まってしまったようだ
「間違いなく父さんもその時にギルドに居て巻き込まれたね
それで監禁された人達には会えるのかい?」
「いえ、兵士から聞いた話だと生きているのは間違いなそうなんだけど、村の者で会えた人は一人も居ないわ」
「まぁとりあえず生きている可能性がかなり高いことが分かって良かった」
「どうするカイル
正面から乗り込むか?」
「いや、まずは商業ギルドで味方になってくれる人を探そう、それからでも遅くはない」
「となると日帰りって訳にはいかなそうね
村外れにある安い宿なら知ってるわよ」
「じゃあ先に宿を取ってからにするか」
【施設紹介】
エイルム商会店舗兼自宅
壁は丸太を積み重ねたログハウス、屋根はシダの木を平たく割ったものを下から順々に重ね合わせていて、調理釜用の煙突がある
玄関ドアは木製で、田舎村には珍しいガラス窓がいくつも付いている
間取りは長方形の短辺に店舗と家の玄関がある店舗側は玄関を入るとカタカナのトの逆向きの仕切りとなっており、最初の部屋はカウンターがあるのみ
カウンターの奥には調理室があり、魔物の解体や塩漬けや燻製を作れるようになっている。
右側の一番広い部屋は食料庫になっており、カウンターの部屋と調理室にドアが付いていてどちらへも行き来出来るようになっている
自宅側は玄関を入るとリビングになっており、部屋の右端にリビング階段が設置されていて二階へ上がれる
リビングの左側は仕切りがあり、その奥はキッチンとなっている
二階は廊下が長辺に通っていて、三部屋共廊下からは入れる仕様になっている