閑話 エッジの武道大会①
ブラックドラゴン襲撃事件から三ヶ月が経ち、カイル達がジルの下を旅立ってから半年、修行を始めて一年が経とうとしていた
カイルはというと大森林の中に居る
朝日が昇り、部屋の中に太陽の光が差し込む
直径約十メートル、高さ約三十メートルはあろうかという大木の上に、簡易的な木造りの家がある
この三ヶ月でカイルが作った家だ
カイルはここを拠点に魔物との戦いの日々を送った
以前にも増して体は引き締まり、身長も僅かに伸びた
そして自作したオークキングの毛皮で出来た革鎧を着用し、ビッグタートルの甲羅を切り出した小手を装備している
ズボンとブーツは変わらずブルーフロッグ製の物を愛用している
剣はオークキングが持っていたオーガの剣を帯剣し、熟練の冒険者の風格が出ている
「そろそろ武道大会か
しかしこの前のオークキングとの戦いはヤバかったな
オークが百匹にオークメイジやオークファイターが居て、オークキングときたもんだ
結局顔に一撃を入れられてしまったけど、何とか殲滅することが出来た」
(痛ッ)
カイルは顔の中心から少し左側の顎に裂傷を負い、歴戦の戦士のような傷が残っている
カイルは主にオークやスケルトン系のアンデッドを数を重視して狩っていた
まだ戦ってないが、サイクロプスやミノタウロス、グリフォンなどの明らかに強い魔物も確認したが、ボーズ達と合流してから討伐すると決め技を磨いていた
「エッジは元気にしてるかな
まぁアンリさん達に様子を見てくれるようお願いしたから大丈夫か
さて、名残惜しいが一度ウィンブルに戻るとしよう」
行きは馬で二日掛かったが、カイルが走ると僅か半日で着き、そのままエッジに任せた蒸し風呂の様子を見に行く
お店の前に着くと、昼間にも関わらず大繁盛している
農作業した男達や奥様方、冒険者らしき人も多くいる
「ようエッジ
元気にしてたか?」
「いらっしゃ……カイル!
やっと帰って来たんだね!」
「ああ
今日帰って来て、そのままここに来たんだ
だいぶ繁盛しているようじゃないか」
「そうなんだよ
あれから凄い人気が出ちゃってさ、凄い行列が出来てね
ある時その行列に並んでいる人同士で割り込みだなんだって喧嘩しちゃってさ
それでおいら止めに入ったんだけど、殴られてしまって、そしたらちょうどアンリさん達が助けてくれてさ
それからはカイル殿に世話になったからって、毎日誰かしらは見守ってくれてるんだ!
今日は確か…
ほらアンリさんだよ、あそこ!」
カイルはアンリを見付けて話し掛ける
「アンリさん!
お久しぶりです」
「おお
カイル殿!
戻られましたか」
「ええ
今日戻りました
エッジから聞いたんですが、おれとの約束をしっかり守ってくれて、エッジとこの蒸し風呂を守っててくれたみたいで
本当にありがとうございます」
「いえ
私達もお世話になりましたし、騎士は誰かの役に立つことが幸せなんですよ、はっはっは」
「必ずこの恩はお返しします」
「お気持ちだけ受け取っておきます」
アンリはエッジと目を合わせて何かを確認する
エッジは頷き、カイルに話し出す
「カイル
怒らないで聞いてくれよ?」
「うん?どうした?」
「実はさ…
もう一つ蒸し風呂を始めたんだ…」
「ええー!?」
「その…
アンリさんの勧めでさ
混み過ぎちゃって、行列も凄い出来ちゃうし、おいらはみんな楽しんで蒸し風呂に入って欲しいんだけど、なんかギスギスしてるような気がしてさ
おかげで行列はかなり解消されて、みんな満足した顔で出て行くんだ」
「エッジ…
お前は何て良いやつなんだ…
怒るはずないじゃないか
寧ろ凄いよ!嬉しいよ!」
「それでお店のお金はアンリさん達に借りてさ
アンリさん達は返さなくて良いって言ってくれたんだけど、ちゃんと儲かったお金で返したいなって思ってさ」
「そうか…
ここでおれから返したらお前の気持ちを踏みにじってしまうことになるな
アンリさん申し訳ないけど、返すまで待って欲しい」
「良いんです良いんです
私達もエッジがこの先どうなっていくのか楽しみですから」
「そうですね
おれも楽しみです
ところでエッジ
武道大会はもうすぐだろ?
あれからちゃんと鍛錬は続けていたか?」
「うん
ちゃんと続けていたし、アンリさん達が稽古を付けてくれたんだ
ちょっと堅苦しい感じだったけど、ははは」
「カイル殿
エッジには騎士道を叩き込みました
いずれ立派な騎士に…
いやもう騎士は食べて行けないからやめた方が良いか…」
「アンリさんありがとうね
騎士にはならないと思うけど、騎士道ってのは胸に刻んで生きて行くよ」
「それなら良かった」
「カイル
大会は一週間後だよ
おいら……おいらの戦いを見てくれ」
「ああ
どれだけ成長したか見せてくれ!」
カイルは武道大会まで手紙を出したり、蒸し風呂を手伝ったり、エッジに稽古を付けたりした
変な癖が付いてしまっていたが、それは気にしないでおくことにした




