【第七部】魔導士団とエリサ
【第七部】魔導士団とエリサ
後書きもお楽しみ下さい
一日一話投稿していきます
カイルが大森林で修行を始めた頃
「先生
コビー先生!
私の話、聞いてました?」
「ああ
すまない
ちょっと居眠りを…」
「たまには働いて下さいよ!」
「エリサ、居眠りするくらいが平和で一番良いんだよ」
宮廷魔導士の役割の一番は、国家の兵器として存在することだ
諸外国や国内の諸侯への睨みを効かせること
そのために魔法の向上や戦術の確立など、基本的に強くなる事を至上命題にされている
宮廷魔導士は約百人居て、士長を筆頭に十人毎の班に分かれて、各々活動をしている
ジルは一万の兵に匹敵すると言われ、士長も千の兵に匹敵するとされている
コビーはその士長を束ねる副士団長であり、士団の派遣先の割り振りや王直属の魔導士たるや不正はあってならないため、内部監視のような役割も果たしている
また王直属の兵士を一万人雇おうとすると、莫大な資金が必要になるため、魔導士団の少数精鋭が運用効率が良く、魔導士の給金はこの国では最も良い
「先生!
今度は北東部にあるルイーズ辺境伯領地内にて内乱の兆しです」
「今度は内乱かい?
この前は要人の警護で大変だったって言うのに
地方の諸侯は未だ自分が王様だと勘違いしてる連中も居るからね」
「編成はどうしましょうか?」
「それも君に任せるよ
君は飲み込みも早いし勉強熱心だ
こんなに楽な部下はそう居ないよ」
「分かりましたけど、後でちゃんと模擬戦やって下さいよ」
「はいはい
君が戦闘狂だったことも付け加えておこう」
エリサの現在の一日は、コビーの事務仕事の手伝いから始まり、それが終わると魔法の研究や魔導士団の戦術の研究をする
最後にコビーとの模擬戦をし、魔力を使い果たすことを自らに課している
(カキカキカキ
トントン
カキカキカキ
午前の事務仕事は粗方終わったわ
お昼を食べたら、今日は士団の戦術の研究ね)
魔導士団は毎年入団テストを行なっており、新たな団員が数名加わっている
魔導士団員となると、諸侯からも声が掛かり、お抱えの魔導士としての働くことも多々あるため、毎年欠員が出る
士長以上は機密情報の保護から、生涯王国への忠誠を誓うことになっている
王宮内地下の魔法戦術研究所にて
重厚な扉の前に屈強な兵士が二人立っている
エリサは特に気にする様子もなく、その扉の横に置かれている台座に手をやる
するとエリサの手を認証して扉が開く
魔導士団員の使える魔法などが一覧になっているため、限られた人間しか入れないように警備されている
中は闘技場のようになっており、そこを見下ろすように二階には研究室がある
「エリサざん
今日も来てぐれだのねぇぇ」
「ミリアさん
毎日ここに来るのが楽しみで仕方ありませんよ」
「そう言っでぐれだら嬉じいでず
なかなか私の情熱に付いで来てぐれる人も居なぐで、うぅ」
「所長もとあろう方が、それくらいで泣かないで下さいよ」
「それでエリサ
この前入団した魔導士達と新たな組み合わせを考えたんだ」
(この人魔法とか戦術の事になると普通に話せるんだよなぁ)
「ええ、ぜひ聞かせて下さい」
毎年新たな魔導士が加わることや単純に個々の戦闘能力が上がっていくことで、その度に班の編成を整えている
今年は土魔導士が多く入団して来たため、ミリアは新しい戦術を考えたようだ
「この土魔導士二人を一緒にすることで、即席の魔法大砲を作れないかなと
そこに火魔導士によってファイヤーボールを注いで圧縮爆発させて、風魔導士が風魔法を付与した石を飛ばしたら、かなりの距離と威力が出るはずなのよ」
「それは良い案ですね
城攻略時に大砲を持って行こうとすると、土魔導士の整地も必要になりますし、かなりの兵士の数と労力が減らせます
さらに少数で馬に乗って行くだけなので、スピード重視の場合は尚更有効ですね」
「エリサ
的確な意見ありがとう
どうでじょう?
あなだも研究員になりまぜんがぁぁ?」
「いえ
私は魔導士になりたいので現場に出ていたいんです」
「勿体無いでずわ…
それで次の戦術だけどね…」
エリサはこうした議論を午後にこなす
そして夕方になるとコビーと街の外に出て、模擬戦をこなす
「エリサ
今日も早いね」
「先生が遅いんですよ
こちらは準備出来てますので行きますね」
「早速か
少しティータイムでもと思ったけど…」
「ファイヤーボール」
エリサは手のひらに火の玉を作る
親指と人差し指と中指の三本からも魔力を送る
「三本指からも圧縮出来るようになったか
これは骨が折そうだ」
エリサはここ半年でついに三本指で同時に魔力圧縮が出来るようになっていた
高密度の拳台の火の玉がコビーに放たれる
「アースウォール」
火の玉とコビーの創り出した石の壁が当たる
すると石の壁は木っ端微塵に吹き飛び、コビーがその姿を現す
着弾前にエリサは高密度ファイヤーボールの二発目を放っていたため、コビーは驚く
しかし冷静に小さいアースウォールを形成し、ファイヤーボールを逸らす
だが、次の瞬間
「ファイヤーブレス」
エリサはドラゴンが炎を噴くように炎を噴射し、コビーを炎で包み込む
コビーは炎に包まれ焼かれてしまったかと思われたが、炎が霧散すると中には石の卵のような形で全身を包むコビーの姿があった
石の卵がバラバラと砕け落ちる
「いやー参ったね
まさかアースシェルまで使わせるとはね
その歳でその破壊力、それに戦術の多様性
将来が楽しみでならないよ」
「そんなこと言って、体に傷一つ付いてないじゃないですか」
「これでも魔導士副士団長だからね
そう簡単にはやられないさ」
コビーが副士団長に就けた理由は、この圧倒的な防御力である
その防御力は王国一とされ、防御力一点で言えばジルをも越える逸材となっている
グリッジ帝国から度々侵略をされて来たカンタラス王国、それを圧倒的な防御力で立ちはだかったのがコビーだ
大規模土魔法による築城や罠の設置、これを破るには多数の犠牲を覚悟しなければならない
グリッジ帝国は支配地域も広いため、カンタラス王国で総力戦をやるメリットがあまりなかった
その後何度かファイヤーボールで攻撃するも、ことごとく防がれてしまう
「じゃあ次は僕からもいくよ」
「アースクウェイク」
エリサの足下が揺れる
しかしエリサは動揺しない
「その攻撃は何度も喰らいましたよ」
「ファイヤーウォール」
エリサは足下に炎のバリアを展開する
そして自身の足周りにも炎属性を付与し、炎のバリアに乗っても自身が傷付かないようにする
「うん
炎属性の付与は問題ないようだね」
「アースバレット」
無数の石がエリサに向かって飛んで行く
「ファイヤーウォール」
エリサは再度炎の壁を展開する
無数の石が炎の壁に当たるが、何発かはすり抜けてしまう
その一個がエリサの肩に直撃する
(いつっ)
「エリサ
石の魔力量を見極めて、ファイヤーウォールの魔力密度を調整しないと防げないよ」
魔力と魔力がぶつかると圧縮された魔力量によって優劣が決まる
そのためコビーが放った石の魔力量を見極めて、ファイヤーウォールの魔力密度範囲を決めなければならない
並の魔導士であれば出力を常に全開して戦うが、上のレベルの魔導士は出力を抑えて、魔力消費量を少なくし、長期戦が可能なようにする
「まだ相手の魔力量を見極められないようだな
宮廷魔導士ならこれくらい出来なきゃ、戦ですぐ死ぬよ
強い魔導士には強い魔導士を当てるか、消耗戦をして魔力を削って倒すしかないからね」
「なかなか自然には出来なくって
戦闘中だと一瞬が命取りなので、その一瞬で見分けるのが難しいんですよ…」
「まぁこれは意識して繰り返すしかないね
じゃあ続きを始めるよ」
「アースバレット」
コビーは再度無数の石を飛ばす
エリサは身構えて詠唱する
「ファイヤーウォール」
コビーが放った無数の石が炎の壁に当たる
そして続けて詠唱する
「ファイヤーウォール」
二枚の炎の壁が作られる
「ほう
考えたね
一枚じゃダメなら二枚か」
何個か一枚目を貫通したが二枚目の壁には弾かれる
「やるね
面白いアイデアだ
ただここまでだ」
「アースニードル」
エリサの周りの地面から突如幾千ものトゲが現れて、エリサを襲う
エリサは炎の壁で防ぐが、両手は炎の壁を作るのに集中してしまう
そしてコビーがエリサの上に現れて、エリサの頭を優しくチョップする
(トンッ)
「あー
悔しい!
今日も負けてしまったわ」
「いやいや
これでも魔導士副士団長だよ?
負ける訳にはいかないさ、ははは」
「次こそは絶対に勝って見せるわ!」
「でもファイヤーウォールの二枚展開は面白かったよ
まだ魔力感知が出来ない君にはちょうど良い
先に出現させた一枚目の壁を破られたら、二枚目をより強固な炎の壁を展開する
ただ詠唱速度が必須なのと、両手が塞がってしまうのがデメリットだね」
「魔力感知が出来るまでは、この方法を使っていこうと考えてます」
「うん
若いんだからドンドンやってくれたまえ」
エリサはそれから宿舎に帰り、寝る前にファイヤーボールを高圧縮させ、魔力が枯渇するまで使い、尽きたら寝るという生活を繰り返していた
【魔物紹介】
オーク オーク種
特徴:体長約二メートルで人型の獣、全身毛で覆われており、攻撃力防御力は高い
ゴブリンと同じく簡単な思考能力を持っていて、革切れを着て槍を持っている
群れが大きくなるとオークキングが現れる




