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episode アンリ

【第六部サイドストーリー】それぞれの道

騎士は貴族階級の一つである

私は騎士家の次男として生まれた

小さい頃から騎士になるものだと思って生きてきた

そして七歳の頃、実家には兄上が居るため、私は子供が居ない上級騎士の下で、丁稚をすることになった

いや、兄上が居るというのは名目で、上級騎士は小さい土地しか与えられていないため、財政面で決して裕福ではない

また上流階級としての面子を保つため、高い生活水準を維持する必要があり、さらに資金的に厳しいのを薄々感じ取っていた


私はそのお方の所で、七歳から十二歳になるまでご奉公をし、十二歳の時騎士見習いとなった

騎士見習いになってからは、騎士の規律を叩き込まれ、騎馬の扱い方や密集陣形の訓練を行った

大変厳しいものではあったが、私は騎士になるのが当然だと思っていたため、寧ろ楽しかった

やっと騎士になれると


しかし同じ騎士見習いは数人居たが、騎士になりたいという者は少なかった

見習いの方が、責任がなくそれなりに給金が貰えるからだ

でも私は父のような立派な騎士になり、世のため人のために人生を捧げたいと思って、一生懸命頑張った


そして、数年すると実際に戦場に出ることになった

上級騎士の横に付き、共に戦うこともあれば、下級騎士の指揮の仕方も習った


騎士は基本的に騎士同士で陣形を組んで戦うため、傭兵や徴兵された兵士と一緒に戦うことはない

そして戦う相手も騎士ばかりだ

騎士は正々堂々と正面突破しか出来ず、一般兵士を捕虜にしても身代金を取れないから、騎士以外と戦いたくないようだ

私はお金を貰うために戦っているのではない、それに疑問を持ちつつも、変えることを出来ずにいた


ある時から私を指導している上級騎士が戦場に来なくなった

何でも上級騎士はコストが掛かるらしい

上級騎士が戦場に出る時は、下級騎士や私のような騎士見習いやお世話係まで付いてくる

それに対して、騎士見習いは戦場に一人で派遣出来るため、費用対効果が良いそうだ


そうして徐々に騎士の肩身が狭くなりつつあったが、私はついに十八歳になった

十八歳になると、叙任式を経て正式に下級騎士となれる

私は公爵様のお屋敷にて無事叙任され、下級騎士となることが出来た

長年の目標であった騎士になることが出来て、ほっとしたのと同時に、これからの騎士の行く末に一抹の不安を覚えたのだった


下級騎士は領地を持たず、上級騎士に仕えるか王直属の近衛兵になるのが一般的だ

また戦場で武功を上げると上級騎士になることができ、領地を与えられ下級騎士を雇うことが出来る

私は世のため人のために仕事をしたいため、上級騎士に引き続き仕えることにした


しかしある時、上級騎士から呼び出され、突如解雇を言い渡された

上級騎士も戦場に出られず、小さな領地からの収入も限られているため、仕方のないことではあった

そして私は宿に泊まりながら、戦があれば騎士として参戦するという形になった

そこであの四人に出会ったのだ


四人も宿屋生活で、似たような境遇だったため、戦場でも一緒に居るようになった

考え方の違いは多少あれど、人々の役に立ちたい、それに人生を捧げる覚悟を持った五人が、意気投合をするのに時間は掛からなかった

そうして数年間、五人で宿屋貧乏暮らしをしつつ戦場に出て、それなりに武功を上げた

お金はなかったが、誰かの役に立っていると思うと、みんなで酌み交わす酒が無性に美味しかった


そしてある時、モリー公爵に呼ばれ、私達は屋敷に行った

そこには多数の騎士が居て、皆何事かと話していた

しばらくすると、モリー公爵が出てきて話し出す

ここにいる騎士は、全員騎士身分のはく奪だそうだ

何でも、近年は魔法や弓での遠距離攻撃が主流になってきており、騎士や騎兵同士の戦いは無駄とのこと

私はたしかに一理あるなと思ってしまった

お金を得るために騎士同士で戦うこの現状に、あまり意味を見出せない

特にこのモリー公爵領は、カンタラス王国の東の国から頻繁に攻め込まれている

そこに騎士は居ない


モリー公爵からは、お抱え魔導士や弓兵になることを打診され、半数近くの者は応じているようであった

残りの半数は、傭兵や冒険者、または地方の領主に仕えていくそうだ


私達はというと、五人で話し合った

弓兵になってしまうと、今後騎士として人の役に立つことが出来ない

地方の領主に仕えるにしても、五人も雇えるほどの領主はそう多くない

そうなると、傭兵か冒険者になるしかなかった

ただ傭兵は自分の正義より、お金が貰える方を支援しなければならないため、傭兵の選択肢はない

残ったのは冒険者となる


冒険者として名を上げれば、どこかの領主から声が掛かるかもしれない

その時、もう一度騎士として雇って貰い、人生を捧げられる

そんな気持ちで五人の意見は一致し、冒険者パーティー『ナイトクラウン』を結成した

居をウィンブルに移し、全員Eランクからスタートを切り、雑務や魔物狩りを順調にこなした

ついにはCランク昇格試験に合格し、晴れてCランクパーティーとなった

しかし冒険者パーティーとしての依頼は多少あったが、どこの領主からも声が掛からず

私達はくすぶっていた


そしてある時、大森林の調査というクエストを目にして、これだと思った

あの大森林を調査して無事帰って来たとなれば、その名はさらに有名になるはずだと

そうして五人で酒を酌み交わし、熱く語り合った夜に、仲間の一人ジダンが勢い余って壁に頭突きをして大けがをしてしまった

四人と五人では大きな違いがある、仮に二人怪我をし、一人ずつ救護しても、残りの一人が戦える

そこで私達は仲間を探すことにした

同じCランク以上の者のほとんどは既にパーティーを組んでいる

出来ればDランクの冒険者が良いと考えた


そういえば、数週間前からとんでもないスピードでクエストをこなす少年が居ると噂になっていた

何でもまだ十代で戦闘も何でも出来るらしい

私は数日、その少年を観察し、狩ってくる魔物の種類と倒し方や受付嬢への対応など確認した

これなら戦闘力的にも問題ないし、孤児の少年の面倒を見るなど、信用出来る人間だと判断し声を掛けた

やはり私の思った通り、好青年で私達の話を真摯に聞いてくれた

そして少年、いやカイル殿の思惑と一致した幸運もあって、共に冒険することになった


大森林に行く準備をしていると、カイル殿が声を掛けてくれた

何でも蒸し風呂を作ったから、一緒に行こうとのことだった

私は蒸し風呂なるものは聞けど初体験であったが、元騎士のプライドが邪魔をして、澄ました顔をして入った

入ってみると、中は熱気で溢れており、汗が滝のように出てくるではないか

そうして熱く火照った体に水を掛けると、何だか体だけでなく、心も整ったようだった

これで銅貨二枚っていうのだから、大森林から帰って来たら、ジダンも誘って五人で毎日通おうと強く思った


それから街を出発して大森林に着くと、まず私達の戦闘スタイルを見て貰った

集団陣形での戦闘をあまり見た事がないのか、興味津々の眼差しを感じた

危なげなくグレートウルフを倒す


次にカイル殿の戦闘を見る

身体強化魔法を使った上に風魔法を纏う重ね掛けだそうだ

そんな人物は宮廷魔導士でしか見た事がない

やはりとんでもない器であった

あの硬くて手数の多いトレントを、物ともせず倒し切った


そして、オーク戦に入る

ここはゴブリンなど弱い魔物は居ない、オークあたりが最弱の魔物となっている

四匹のオークともなれば、安全を考えれば二パーティーで狩りたい

しかしカイル殿が居れば何とかなるような気がして戦った

結果としては、我々の防御力を生かしつつ、カイル殿がほとんど一人で倒してしまった


それから数日は本来の調査を進め、魔物の種類や生息域を確認し、無事調査を終えることが出来た

狩った獲物の戦利品も山分けを提案したが、断られてしまった

何と欲のない男なのだろうと思った

結局少しは貰ってくれたが、私達は益々カイル殿を好きになってしまった


カイル殿は引き続き、大森林で修行をするそうで、何とか生き抜いて欲しいと心から願った

帰って来たら、正式にパーティーに入ってくれないかとも思ってしまった

去り際に孤児の少年、エッジの様子も定期的に見て欲しいとお願いをされた

私達はエッジを守ることと蒸し風呂に絶対行くことを約束して別れた

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